- 著者
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浦山 佳恵
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.95, 2021 (Released:2021-03-29)
日本には,かつて地中に巣を作るクロスズメバチVespula sp.の幼虫や蛹を「蜂の子」と呼び食す慣行が広くあった.明治以降,全国的に蜂の子の商品化が進み,1980年以降生息数の減少が指摘されるようになると、1990年以降各地で蜂追いを楽しむ同好会が設立され,1999年には全国地蜂愛好会が結成され情報交換を通じて資源保護や増殖活動が行われるようになった.2006年現在,30余りの会が蜂追いや巣の大きさを競うコンテスト,増殖活動をしているという.1980年代までの伊那谷は,全国的にも積極的な蜂の子食慣行がみられた地域の一つで,蜂の子はご馳走にもなり,煮たり煎ったりするだけでなく蜂の子飯や五目飯,寿司等にもされていた.採取方法も蜂追いや透かしという方法で見つけたり,夏に小さい巣を採り自宅周辺で飼育する飼い巣を行ったりしていた.蜂追いや飼い巣は貴重な蛋白源を得るための生業であるとともに,大人や青少年にとっては娯楽の一つでもあった.現在、伊那谷北部に位置する伊那市にも,「伊那市地蜂愛好会」が存在する.また,伊那谷では蜂の子の佃煮が土産物や日常のおかずとしてサービスエリア,道の駅,スーパー等で販売されているが,それらの原料の多くは県外・海外から輸入されたものであるという.食生活が豊かになった今,伊那谷の地域住民にとってクロスズメバチはどのようなものになっているのだろうか.2018〜2020年に,伊那市の地蜂愛好家5名への蜂の子食慣行に関する聞取り調査及び飼い巣の見学,伊那市地蜂愛好会の活動への同行を行い,現在の伊那谷のクロスズメバチがもたらす自然の恵みについて考察したので報告する.