- 著者
-
南野 一博
福地 稔
明石 信廣
- 出版者
- 北海道立林業試験場
- 雑誌
- 北海道林業試験場研究報告 (ISSN:09103945)
- 巻号頁・発行日
- no.44, pp.109-117, 2007-03
- 被引用文献数
-
1
北海道美唄市にある北海道立林業試験場光珠内実験林とその周囲の森林において、2003年12月-2004年3月にラインセンサスを行い、センサスルート沿いでみられたエゾシカの痕跡を記録し、冬期間の生息状況を把握するとともに糞の内容物を分析した。さらに、1月下旬から3月下旬にかけて越冬地で発生した樹木の剥皮状況について調査した。エゾシカの痕跡は、12月中旬にはセンサスルートの全域でみられたが、1月下旬-3月中旬まではトドマツ人工林とそれに隣接する広葉樹二次林でのみ確認され、エゾシカはトドマツ人工林を利用して越冬していた。糞分析の結果、12月下旬まではクマイザサを中心としたグラミノイドが大半を占めていたが、積雪が増加するとともに減少した。一方で、積雪が100cmを超えた1月下旬以降はグラミノイドに代わり木本類が大部分を占め、2月-3月は糞内容物の90%以上が木本類で構成されていた。越冬地で発生した樹木の剥皮状況を調査した結果、剥皮木はトドマツ人工林に隣接する広葉樹二次林の約27haでみられ、3月下旬までの累積剥皮本数は310本に達した。剥皮木の発生数は、1月下句から急激に増加しており、糞分析において木本類の割合が増加した時期と一致していた。これらのことから、多雪地においてエゾシカは、常緑針葉樹人工林を利用して越冬しており、積雪のためササ類を餌として利用できない期間が寡雪地よりも長くなることや、行動を阻害されることにより樹木の剥皮が越冬地で集中的に発生することが示唆された。