著者
南野 一博 雲野 明 明石 信廣
出版者
北海道立林業試験場
巻号頁・発行日
no.54, pp.1-8, 2017 (Released:2017-10-02)

道有林空知管理区イルムケップ山の東側に位置する保残伐実験地周辺において,ライントランセクト法を用いてエゾシカの生息密度を推定するとともに,調査ライン沿いに自動撮影カメラを設置し,100カメラ稼働日あたりのエゾシカの撮影枚数を撮影頻度指標(RAI)として算出した。ライントランセクト法は,調査地内に約42kmの調査ラインを設置し,2014年6月と10月にそれぞれ4日間実施した。6月の調査では,4日間で計4頭のエゾシカが観察され,10km走行あたりの観察数は0.24頭であった。10月の調査では,4日間で21頭,10km走行あたり1.35頭が観察された。10月の観察結果を用いて距離標本法による生息密度を推定した結果,調査地内のエゾシカの生息密度は3.5頭/km2(95%信頼区間:2.3~4.5頭/km2),生息数は206頭(132~321頭)と推定された。一方,カメラトラップによる全期間を通したRAIは14.7であり,月別RAIは,0.0~31.7と大きく変動し,1月~3月までの期間はエゾシカが撮影されなかった。また,地点別RAIでは,86.2と高い地点がある一方,エゾシカが撮影されなかった地点もみられた。これらのことから,カメラトラップは,生息状況の季節変化を把握する有効な手法となるが,低密度地域では設置地点によりRAIが大きくばらつくと考えられた。
著者
明石 信廣 南野 一博
出版者
北海道立林業試験場
巻号頁・発行日
no.46, pp.117-126, 2009 (Released:2011-02-03)

北海道立林業試験場光珠内実験林において、自動撮影カメラを用いて哺乳類相を調査した。2006年及び2007年の5月から11月の間に、2台のカメラを4箇所の調査地に交互に設置し、総撮影日数は536日であった。今回の調査方法では、エゾリス、エゾシマリス、キタキツネ、タヌキ、エゾヒグマ、クロテン、エゾシカの在来種7種及び外来種としてアライグマ1種の生息が確認された。ネズミ科及び翼手目も撮影されたが、写真による種の同定が困難であった。食痕や糞から、実験林内におけるエゾユキウサギの生息は確認されたが、撮影はされなかった。文献を基に北海道に生息するとされる哺乳類のリストを作成し、2006〜2007年に実験林において確認された種を示した。
著者
明石 信廣 南野 一博 中田 圭亮
出版者
北海道立林業試験場
雑誌
北海道林業試験場研究報告 (ISSN:09103945)
巻号頁・発行日
no.44, pp.97-108, 2007-03

1985-2005年の一般民有林及び道有林における野ネズミ発生予察調査資料に基づき、市町村を単位として各年の10月のエゾヤチネズミ平均捕獲数をクラスター分析し、その結果をもとに、支庁などの行政界や地形を考慮して全道を20地域に区分した。その地域ごとに、10月の調査においてそれぞれのワナにエゾヤチネズミが捕獲される確率を目的変数、その調査地における6月及び8月の捕獲数のそれぞれ3次多項式、6月の捕獲数と8月の捕獲数の交互作用を説明変数とする一般化線形モデルにより、10月のエゾヤチネズミ捕獲数を予想するモデルを作成した。モデルによる1995-2005年の10月の予想捕獲数と実際の捕獲数の相関係数は0.726であった。
著者
南野 一博 明石 信廣
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-26, 2011-06-30
被引用文献数
1

北海道西部の多雪地域に生息するエゾシカ<i>Cervus nippon yesoensis</i>の冬期の食性を明らかにするために,2006年11月から2007月4月及び2007年11月から2008年4月までの2冬期間,越冬地において定期的に糞を採取し,その内容物を分析した.さらに,越冬地の積雪深を測定し,糞中の割合と積雪深との関係について解析した.糞分析の結果,無積雪期にはクマイザサ,イネ科草本などのグラミノイド,広葉草本類,落葉など多くの食物が利用されていたが,積雪後は内容物のほとんどがクマイザサ及び小枝・樹皮などの木本類の非同化部によって占められていた.越冬地の最大積雪深は2冬期間ともに100 cmを超え,2008年1月上旬には152 cmに達し,2007~2008年における100 cm以上の積雪期間は約2ヶ月半に及んでいた.糞中に占める木本類の割合は積雪の増加とともに高くなり,積雪深が100 cm以上になると大半を占めるようになった.一方,クマイザサの割合は無雪期や積雪が増加した厳冬期には低く,初冬期や融雪期など積雪が中程度のときに最も多く利用されていた.以上のことから,多雪地で越冬するエゾシカの食性は,クマイザサと木本類が主要な餌となっているが,その割合は積雪深に大きく影響を受けており,積雪が増加してクマイザサの利用が制限される期間は,餌のほとんどを木本類に依存していることが明らかとなった.<br>
著者
南野 一博 福地 稔 明石 信廣
出版者
北海道立林業試験場
雑誌
北海道林業試験場研究報告 (ISSN:09103945)
巻号頁・発行日
no.44, pp.109-117, 2007-03
被引用文献数
1

北海道美唄市にある北海道立林業試験場光珠内実験林とその周囲の森林において、2003年12月-2004年3月にラインセンサスを行い、センサスルート沿いでみられたエゾシカの痕跡を記録し、冬期間の生息状況を把握するとともに糞の内容物を分析した。さらに、1月下旬から3月下旬にかけて越冬地で発生した樹木の剥皮状況について調査した。エゾシカの痕跡は、12月中旬にはセンサスルートの全域でみられたが、1月下旬-3月中旬まではトドマツ人工林とそれに隣接する広葉樹二次林でのみ確認され、エゾシカはトドマツ人工林を利用して越冬していた。糞分析の結果、12月下旬まではクマイザサを中心としたグラミノイドが大半を占めていたが、積雪が増加するとともに減少した。一方で、積雪が100cmを超えた1月下旬以降はグラミノイドに代わり木本類が大部分を占め、2月-3月は糞内容物の90%以上が木本類で構成されていた。越冬地で発生した樹木の剥皮状況を調査した結果、剥皮木はトドマツ人工林に隣接する広葉樹二次林の約27haでみられ、3月下旬までの累積剥皮本数は310本に達した。剥皮木の発生数は、1月下句から急激に増加しており、糞分析において木本類の割合が増加した時期と一致していた。これらのことから、多雪地においてエゾシカは、常緑針葉樹人工林を利用して越冬しており、積雪のためササ類を餌として利用できない期間が寡雪地よりも長くなることや、行動を阻害されることにより樹木の剥皮が越冬地で集中的に発生することが示唆された。