- 著者
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George Pullattu Abraham
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, pp.67-93, 2007-09
宮沢賢治は、詩人・童話作家として世界中に知られるようになった。岩手県出身の賢治の作品に岩手県もなければ、日本もなく、「宇宙」だけがあるとよく言われる。まさにその通りである。彼のどの作品の中にも、彼独自の人生観、世界観及び宗教観が貫いていて、一種の普遍性が顕現していることは、一目瞭然である。彼の優れた想像力、超人的な能力、そして一般常識の領域を超えた彼の感受性は、日本文学史上、前例のない一連の文学作品を生み出した。賢治の文学作品に顕現されている「インド・仏教的思想」、つまり生き物への慈悲と同情、不殺生と非暴力主義、輪廻転生、自己犠牲の精神及び菜食主義などの観念はどんなものか、インド人の観点から調べ、解釈するとともの賢治思想の東洋的特性を強調することが、本稿のねらいである。 賢治の思想と彼の人格を形成した主な外力として、彼の生まれ育った家の環境、宗教とりわけ、法華経から受けた霊感、教育と自然の観察によって取得した啓蒙的知識、貧しい県民への同情などが取り上げられる。本稿の前半で賢治の思想と人格を形成したこれらの外力についてふれ、その次に「よだかの星」という作品を中心に賢治作品に顕在している「非暴力」「慈悲」及び「自己犠牲の精神」の思想を考察した。最後に、「ビヂテリアン大祭」という作品を基に、賢治の菜食主義の思想の裏に潜む仏教的観念とインドにおける菜食主義との関連性を論じ、賢治作品の顕現しているインド・仏教的思想を究明した。