著者
鈴木 貞美
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.315-348, 2008-09

和辻哲郎(一八八九―一九六〇)の『ニイチェ研究』(一九一三)は、彼の哲学者としての出発点をなす書物であり、同時に、日本における初めてのまとまったフリードリッヒ・ウィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Willhelm Nietzsche, 1844-1900)の研究書として知られている。また、そこに示された考え方は、その後の彼の歩みに、かなりの意味をもつものとなった。 本稿第一章では、『ニイチェ研究』の立場、方法、意図を分析し、「宇宙生命」を原理とする初期和辻哲郎の哲学観が大正生命主義の一典型であることを明らかにする。第二章「『ニイチェ研究』まで」では、和辻哲郎の最初期の著作にニーチェへの接近の跡をたどり、第三章では、内的経験、暗示象徴、永遠回帰、宇宙生命などのキイワードについて考察し、また同時代思潮との関連をさぐる。第二章、第三章をあわせて、初期和辻の哲学観、世界観(狭義の哲学観、表現観)の形成過程を明らかにする。「結語」では、各章の結論をまとめるとともに、和辻哲郎の初期哲学が、その後の歩みに、どのように働いているかを展望する。 なお、本稿は、和辻哲郎の「哲学」「芸術」観をめぐって、「修養」及び「人生論」との関係を探る点で、二十世紀初頭の学芸ジャンル概念編成の解明に資するものであり、同時に和辻哲郎の「宇宙生命」観念と、その形成過程を探る点において、二十世紀初頭の生命観、とりわけ大正生命主義研究を増補するものである。

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