- 著者
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島村 宣男
- 出版者
- 関東学院大学[文学部]人文学会
- 雑誌
- 関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
- 巻号頁・発行日
- no.114, pp.17-76, 2008
2008年夏、米国の映画界はファン期待の新作The Dark Knightの話題で沸騰した。この作品はグラフィック・ノベル(劇画)を原作とする新バットマン・シリーズの第一作Batman Begins(2005)の続編、監督はイギリスの俊英C. Nolan、キャストはタイトルロールのC. Bale以下、M. Caine、G. Oldman、M. Freemanといった錚々たる名優たちの続投に加え、H. Ledger、A. Eckhart、M. Gyllenhaalなど、個性豊かな演技派が競演する超大作である。多くの批評家がジャンルの枠を超えた「傑作」と絶賛するなか、The Dark Knightは7月中旬に全米公開されるや圧倒的な支持が拡がり、「全米歴代新記録 7冠」という快挙を達成した。すなわち、(1)公開劇場館数(4,366館)、(2)ミッドナイトプレヴュー興収(1,850万ドル)、(3)公開初日興収(6,716万ドル)、(4)公開週末3日間興収(1億5,841万ドル)、(5)興収2億ドル突破最短記録(5日間)、(6)興収3億ドル突破最短記録(10日間)、(7)興収4億ドル突破最短記録(18日間)がそれである。8月末現在、国内総収益(all time grosses)は5億ドルを突破して史上第二位、Titanic(1997)の最高記録6億ドルを追っている。The Dark Knightが「傑作」と評される所以は何か?完成度の高いスクリプトを通して、この叙事詩的な風格さえ漂わす「ブロックバスター」の倫理的なメッセージを読み解きながら、アメリカ的精神の在り処を探る本稿は、先考「"a guy who dresses up like a bat clearly has issues<--映画Batman Beginsの記号論」(2006)の続編でもある。