- 著者
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菅原 七郎
- 出版者
- 養賢堂
- 雑誌
- 畜産の研究 (ISSN:00093874)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.5, pp.549-554, 2009-05
哺乳類の胚操作と畜産への応用と将来。ラクダのARTsと胚操作。世界の主要先進国では、ラクダ類は動物園動物やコンパニオン動物としてのみ活用されており、家畜として取り扱いはされていない。しかし、旧世界で本来ラクダが棲息していた地域の住民にとっては生活に必須な動物であったし、現在もその位置づけは一部の地域を除いて全く変わっていない。ラクダを家畜として生活を共にしている民は北アフリカ(ソマリア、エチオピアと周辺諸国)、中東諸国、アジア(インド、中国、モンゴル、ロシア)および南アメリカのアンデス山系の各国に分布しており、約2,000万頭を飼育している。アフリカ、ユーラシア大陸の旧世界に棲息するラクダは背にヒトコブとフタコブをもつ種類である。最近、これらラクダは中近東の石油産出国をはじめ、遊牧民が少なくなった諸国では飼養頭数が急激に減少している。中国、モンゴルでも交通革命や近代化の波に押されて減少に歯止めがきかなくなってきている。他方、新世界の南北アメリカ、とくに南米大陸に棲むラクダ属は、旧世界のラクダと比べ小型であり、ラマ、アルパカ、グアナコ、ビクーニャなどが生存している。アンデス山系のこれらのラクダも15世紀、スペインの侵攻と共にヨーロッパの家畜が移入されて徐々に減少してきている。現在、ビクーニャとグアナコは絶滅危惧種に指定されている。しかし、ラクダを家畜としている国や動物遺伝資源として活用する立場から、ラクダの改良増殖に家畜で実用化されている新技術や胚操作法を利用することが行われ始めている。本稿ではラクダの改良増殖法としての繁殖技術や胚操作法について最近の進展や利用状況などについて研究報告を紹介する。