- 著者
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鈴木 正夫
- 出版者
- 関東学院大学[文学部]人文学会
- 雑誌
- 関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
- 巻号頁・発行日
- no.116, pp.61-93, 2009
太平洋戦争勃発によって、上海は全面的に日本軍の支配下に入った。柯霊はあえてここに止まり、演劇活動や雑誌の編集活動に携わりながら、抗日的姿勢を崩さなかった。そのために抗日戦勝利までに2度、日本の憲兵隊に逮捕された。2度目は死線をさまようほどの苛酷な拷問を受けた。戦後間もなく、彼はその憲兵の蛮行を8首の打油詩にしたため、「獄中詩記」として発表し暴露した。李健吾も同じ憲兵隊に逮捕され、これまた残酷な拷問を加えられた。李健吾は戦後、3篇の文を書いて、これを訴えている。戦時中、人気作家になった張愛玲は、柯霊がその育成に与ったところがある。柯霊の最初の逮捕時、拷問に会わなかったのは、張愛玲の夫で漢奸の名高い胡蘭成の働きかけがあったことを柯霊が知って、複雑な感情を抱くとともに、張愛玲に感謝するのは、戦後長くたってからである。抗日戦勝利前後の柯霊を中心に、これらの状況を考察した。