- 著者
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有瀧 真人
- 出版者
- 水産総合研究センター
- 雑誌
- 水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
- 巻号頁・発行日
- no.37, pp.147-197, 2013-03
異体類の多くは,有用な水産資源として沿岸漁業や養殖漁業に深く関わっており,栽培漁業の対象種としても取りあげられてきた。代表的なヒラメやマコガレイをはじめ,わが国において種苗生産が試みられた異体類は12種にもおよぶ。しかし,どの種類においても白化や両面有色に代表される体色異常ならびに眼位や頭部骨格などに現れる形態異常が多発し問題となっているのに加え,その要因や発現機構については,ヒラメなどごく一部の種を除いて十分な検討がなされていない。本研究は,特に形態異常が多発するカレイ科魚類について基礎的な知見を収集し,それらをもとに形態異常の発現の機序や防除方法を明らかにすることを目的とした。第1章. 飼育したカレイ科魚類の変態に関わる形態異常 カレイ科魚類をふ化仔魚から人工環境下で飼育した場合,多くの種で変態期に形態異常魚が高い頻度で出現し,種苗生産の現場において大きな問題となっている。本章では,マガレイやホシガレイを中心にカレイ科魚類8種について有眼側と無眼側の眼位,体色,上顎,胸鰭,両顎歯,鱗を測定・観察し,天然魚と比較することにより,形態異常魚にどのような変化が生じているかを検討した。その結果,全ての魚種において変態後の形態は,正常魚,白化魚(2タイプ),両面有色魚の4タイプに区分することが可能であった。また,それらの両体側形質の比較から,正常魚は天然魚と同様の変態を完了しているのに対し,白化魚は両側が無眼側の形態に,両面有色魚は両側が有眼側の形態に変態していることが明らかとなった。このことから,本研究で取り上げた仔魚期の形態異常は変態に関連した異常,すなわち"変態異常"であると結論づけた。第2章. 飼育したカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期 変態異常を防除するには,その発現にどの発育期が最も深く関わっているかを解明することがきわめて重要である。異体類の中で,変態異常に関する試験・研究が先行して行われているヒラメでは,ブラジル産アルテミア(BA)を給餌することにより,ほぼ全ての個体が白化魚になることや,変態始動期の発育ステージにおいて最もその感受性の高いことが明らかにされている。本章では,マガレイとホシガレイをモデル魚種として,BAの給餌開始時期を変えて飼育を行い,白化魚の出現状況からカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期を検討した。その結果,上記両種はBA給餌によって90~100%の個体が白化魚となった。また,BAを給餌した影響は,マガレイでは全長8mm,ホシガレイでは全長10mmまでであり,影響を受ける発育期は両種ともステージE(変態初期)までであると判断された。すなわち,両種ともにステージF以降の仔魚では変態異常の発現は決定しており,ステージE以前がカレイ科魚類の変態異常発現にとって重要であると考えられた。第3章. 飼育したカレイ科魚類の変態異常と仔魚の成長および発育 異体類種苗生産のモデル種であるヒラメでは,変態異常に関して様々な研究が行われ,その発現の機序についても部分的に解明が進められている。しかし,カレイ科魚類では体系的な研究はこれまで全く行われていない。本章では,カレイ科魚類における変態異常の出現機序の一端を明らかにすることを目的に,ふ化から変態までの時間が大きく異なるマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの仔魚をそれぞれ6~24℃の水温下で飼育し,変態異常魚の出現状態と発育・成長の関係について検討した。上記3魚種ではともに,飼育水温の上昇に伴い発育・成長が促進された。その相対的な速度はマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの順に早く,既存の知見に合致した。正常魚,白化魚,両面有色魚の出現率と飼育水温の関係は,種ごとに特有の傾向を有し,再現性もきわめて高かった。このうち正常魚の出現率が最も高くなる着底までの日数は,マガレイで最も早く,ホシガレイ,ババガレイの順に遅くなった。これら着底日は耳石微細輪紋より推定されている天然魚の値に近似した。このことから,変態異常の発現は,飼育環境では発育・成長過程が天然魚と大きくずれることに一因があると推察された。