著者
大河内 裕之 山根 幸伸 有瀧 真人
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.389-394, 2008 (Released:2008-05-28)
参考文献数
11
被引用文献数
3 9

岩手県宮古湾で産卵直後のニシン成魚を採捕し,2 年間で合計 500 尾を標識放流した。放流後 3 年 2 ヶ月間で合計 114 尾の標識魚が再捕され,再捕率は 22.8% であった。これらの再捕経過から,宮古湾で産卵を終えたニシンは速やかに産卵場を離れて北上回遊し,夏季には宮古湾の 300 km 北方の北海道噴火湾海域に生息すると考えられた。放流翌年の産卵期には合計 32 尾が成熟して宮古湾内で再捕され,これらは噴火湾から南下した産卵回帰個体と判断された。本州沿岸で産卵するニシンは,標識魚と同様の回遊生態を持つと考えられた。
著者
有瀧 真人
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.37, pp.147-197, 2013-03

異体類の多くは,有用な水産資源として沿岸漁業や養殖漁業に深く関わっており,栽培漁業の対象種としても取りあげられてきた。代表的なヒラメやマコガレイをはじめ,わが国において種苗生産が試みられた異体類は12種にもおよぶ。しかし,どの種類においても白化や両面有色に代表される体色異常ならびに眼位や頭部骨格などに現れる形態異常が多発し問題となっているのに加え,その要因や発現機構については,ヒラメなどごく一部の種を除いて十分な検討がなされていない。本研究は,特に形態異常が多発するカレイ科魚類について基礎的な知見を収集し,それらをもとに形態異常の発現の機序や防除方法を明らかにすることを目的とした。第1章. 飼育したカレイ科魚類の変態に関わる形態異常 カレイ科魚類をふ化仔魚から人工環境下で飼育した場合,多くの種で変態期に形態異常魚が高い頻度で出現し,種苗生産の現場において大きな問題となっている。本章では,マガレイやホシガレイを中心にカレイ科魚類8種について有眼側と無眼側の眼位,体色,上顎,胸鰭,両顎歯,鱗を測定・観察し,天然魚と比較することにより,形態異常魚にどのような変化が生じているかを検討した。その結果,全ての魚種において変態後の形態は,正常魚,白化魚(2タイプ),両面有色魚の4タイプに区分することが可能であった。また,それらの両体側形質の比較から,正常魚は天然魚と同様の変態を完了しているのに対し,白化魚は両側が無眼側の形態に,両面有色魚は両側が有眼側の形態に変態していることが明らかとなった。このことから,本研究で取り上げた仔魚期の形態異常は変態に関連した異常,すなわち"変態異常"であると結論づけた。第2章. 飼育したカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期 変態異常を防除するには,その発現にどの発育期が最も深く関わっているかを解明することがきわめて重要である。異体類の中で,変態異常に関する試験・研究が先行して行われているヒラメでは,ブラジル産アルテミア(BA)を給餌することにより,ほぼ全ての個体が白化魚になることや,変態始動期の発育ステージにおいて最もその感受性の高いことが明らかにされている。本章では,マガレイとホシガレイをモデル魚種として,BAの給餌開始時期を変えて飼育を行い,白化魚の出現状況からカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期を検討した。その結果,上記両種はBA給餌によって90~100%の個体が白化魚となった。また,BAを給餌した影響は,マガレイでは全長8mm,ホシガレイでは全長10mmまでであり,影響を受ける発育期は両種ともステージE(変態初期)までであると判断された。すなわち,両種ともにステージF以降の仔魚では変態異常の発現は決定しており,ステージE以前がカレイ科魚類の変態異常発現にとって重要であると考えられた。第3章. 飼育したカレイ科魚類の変態異常と仔魚の成長および発育 異体類種苗生産のモデル種であるヒラメでは,変態異常に関して様々な研究が行われ,その発現の機序についても部分的に解明が進められている。しかし,カレイ科魚類では体系的な研究はこれまで全く行われていない。本章では,カレイ科魚類における変態異常の出現機序の一端を明らかにすることを目的に,ふ化から変態までの時間が大きく異なるマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの仔魚をそれぞれ6~24℃の水温下で飼育し,変態異常魚の出現状態と発育・成長の関係について検討した。上記3魚種ではともに,飼育水温の上昇に伴い発育・成長が促進された。その相対的な速度はマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの順に早く,既存の知見に合致した。正常魚,白化魚,両面有色魚の出現率と飼育水温の関係は,種ごとに特有の傾向を有し,再現性もきわめて高かった。このうち正常魚の出現率が最も高くなる着底までの日数は,マガレイで最も早く,ホシガレイ,ババガレイの順に遅くなった。これら着底日は耳石微細輪紋より推定されている天然魚の値に近似した。このことから,変態異常の発現は,飼育環境では発育・成長過程が天然魚と大きくずれることに一因があると推察された。
著者
大河内 裕之 山根 幸伸 有瀧 真人
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.389-394, 2008-05-15
被引用文献数
1 9

岩手県宮古湾で産卵直後のニシン成魚を採捕し,2年間で合計500尾を標識放流した。放流後3年2ヶ月間で合計114尾の標識魚が再捕され,再捕率は22.8%であった。これらの再捕経過から,宮古湾で産卵を終えたニシンは速やかに産卵場を離れて北上回遊し,夏季には宮古湾の300km北方の北海道噴火湾海域に生息すると考えられた。放流翌年の産卵期には合計32尾が成熟して宮古湾内で再捕され,これらは噴火湾から南下した産卵回帰個体と判断された。本州沿岸で産卵するニシンは,標識魚と同様の回遊生態を持つと考えられた。
著者
木村 清志 中村 行延 有瀧 真人 木村 文子 森 浩一郎 鈴木 清 Kimura Seishi Nakamura Yukinobu Aritaki Masato Kimura Fumiko Mori Koichiro Suzuki Kiyoshi
出版者
三重大学水産学部
雑誌
三重大学水産学部研究報告 (ISSN:02875772)
巻号頁・発行日
no.10, pp.p71-93, 1983-10
被引用文献数
3

1980年4月から1982年5月までの期間に,三重県英虞湾湾口部のアマモ場で,ビームトロールにより魚類の採集を行い,このアマモ場の魚類相とその季節的変化について,次のような結果を得た。1. 採集された魚類は13目53料117種27,293個体であった。個体数はゴンズイ,ギンポ,アミメハギ,ハオコゼ,ヨウジウオ,アナハゼの順に多く,この6種で全体の8割程度を占める。 2.各魚種の出現状態から,これらを周年定住種,季節的定住種、偶発種に分け,さらにいくつかのグループ,サブグループに細分した。 3. 種数は夏から秋に増加し,冬に減少する。4. 個体数のピークは5,6月,8月,10,11月,1,2月の年4回みられ,これらほスジハゼ,アミメハギ,ハオコゼ,アナハゼ,アサヒアナハゼ,ゴンズイ,ギンポ,サビハゼ,カワハギなどの変動に起因している。 5. このアマモ場の魚類相は,ヨウジウオ,ハオコゼ,アミメハギの周年にわたる出現,冬から春のギンポ,アナハゼ,6月のサビハゼ,8月のゴンズイの大量出現,夏から秋にかけてのベラ料やヒメジ科魚類の多種にわたる出現によって特徴づけられる。このような魚類相は暖流外海性の特徴で,黒潮沿岸各地のアマモ場の魚類相と共通性が高い。しかし,一方でほそれぞれのアマモ場の魚類相には特異性もみられる。 6. ギンポの大量出現ほ伊勢湾周辺のアマモ場の特徴である。 7. 英虞湾湾口部のアマモ場では有用椎幼魚の出現比率が低い。したがって魚類生産に関する限り,このアマモ場の水産的価値は小さいと判断される。Fish fauna of the Zostera bed at the mouth of Ago Bay, Mie Prefecture were studied by monthly samplings with a small beam trawl from April 1980 to March 1981 and from June 1981 to May 1982. The results obtained are summarized as follows : 1 ) 27,293 individuals (13 orders, 53 families, 117 species ) were collected in the Zostera bed. Plotosus lineatus, Enedrias nebulosus, Rudarius ercodes, Hypodytes rubripinnis, Syngnathus schlegeli,and Pseudoblennius percoides were dominant species. About 80 percent of the specimens collected belonged to these six species. 2 ) Each species of fish collected was divided into three categories, i. e. residents, seasonal residents, and casual species. Residents and seasonal residents were subdivided into a few of groups and subgroups as follows : (I) Residents ; fishes appearing in the Zostera bed all the year round. Group A ; fishes residing during the major part of their life cycle, and using the Zostera bed as their nursery, feeding and spawning grounds. Group B ; fishes inhabiting mainly during juvenile stage, and using the Zostera bed principally as a nursery ground. Group C ; fishes inhabiting chiefly during adult and subadult stages, and using the Zostera bed primarily as a feeding ground. Group D ; fishes universally distributed in the bay and commonly appearing in the Zostera bed. Group E ; fishes which may reside during all seasons in a very small number in the Zostera bed. (II) Seasonal residents ; fishes which spend a certain definite season in the Zostera bed. Group F ; fishes residing during juvenile and young stages and using the Zostera bed only as a nursery ground. Subgroup a ; fishes which spend a long perid of time ( more than four months) in the Zostera bed. Subgroup b ; fishes which spend a short period of time ( less than three months) in the Zostera bed. Group G ; fishes residing from juvenile to adult or subadult stages. Subgroup c ; fishes which inhabit the Zostera bed in a large number, and which use the Zostera bed as nursery, feeding, and spawning grounds. Subgroup d ; fishes which reside in the Zostera bed principally as a nursery ground. (III) Casual species ; fishes appearing casually in the Zostera bed. 3 ) Number of species increased from summer to autumn by recruitment of juveniles belonging to seasonal residents and casual species, and then decreased in winter. 4 ) Total number of individuals increased in May or June, August, October or November, and January or February. This fluctuation was caused by seasonal changes of populations of the following nine species ; Acentrogobius pflaumi, Rudarius ercodes, Hypodytes rubripinnis, Pseudoblennius percoides, P. cottoides, Plotosus lineatus, Enedrias nebulosus, Sagamia geneionema, and Stephanolepis cirrhifer. 5 ) The fish fauna of the Zostera bed at the mouth of Ago Bay was chracterized by the following : ( 1 ) Syngnathus schlegeli, Hypodytes rubripinnis, and Rudarius ercodes residing all year round. ( 2 ) Appearance in great number of Enedrias nebulosus and Pseudoblennius percoides from winter to spring, of Sagamia geneionema in June, and of Plotosus lineatus in August. ( 3 ) Subsistence of many species of fishes belonging to Labridae and Mullidae from summer to autumn. 6 ) Appearance of Enedrias nebulosus in large number was a peculiar feature of the fish fauna of the Zostera bed in and around Ise Bay, central Japan. 7 ) As far as the fish production in concerned, the Zostera bed at the mouth of Ago Bay had little significance for inshore fishery because there the juveniles of useful fishes were very few.