著者
中山 俊
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.83-108, 2014-02

1887年3月30日,フランスにおいて建造物と美術品の保護にかんする法律が初めて成立した。歴史的,美術的見地から「国民の利益」を有する不動産と動産,いわば歴史的記念物を指定することで,中央政府の許可のない修復工事,譲渡等を抑止することが立法の目的であった。以後,地方の学術団体は,指定するに値する文化遺産を推薦するよう求められた。トゥールーズでは,郷土史家団体のフランス南部考古学協会(SAMF)がそれに対応した。彼らは芸術の町としての過去の栄光を誇り地元の作品を保護するため,トゥールーズ独自の建造物,美術品をも指定しようとした。しかし,とくに動産にかんしては,指定に対する所有者の消極的な態度によりSAMFは情報を十分に収集することができなかった。「国民の利益」にこだわる政府と地方の連携もまた容易ではなかった。それでも,指定された建造物,美術品はSAMFが推薦したものであった。1887年法に基づいて行われた指定事業は,文化遺産を「大きな祖国」の国民芸術として保護するためのものでは必ずしもなかった。郷土史家は指定を通じて,「小さな祖国」に特有の文化遺産の保護に貢献したのである。

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