著者
松尾 雄二
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.835-840, 2015-09

「文献にみる牛肉料理について」により,南蛮系料理として黄飯・なんばんれうりarros com vacca,くじいとcozido,ひかどpicado,オランダ系料理の牛かんfrikkadel,卓袱料理コヲル,南瓜料理などに牛肉が入れられたことを文献等で示した。その中で,牛肉などを煮る鍋物料理として「くじいと」に注目する。くじいと(くしいと)はポルトガル語ではコジートcozido,スペイン語でコシードcocidoとされ,茹でる・煮る意味である。コシードは,セルバンテスの「才智あふるる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(会田訳)」の冒頭に「名は思いだしたくないが,ラ・マンチャのさる村に,さほど前のことでもない,槍掛けに槍,古びた楯,痩せ馬に,足早の猟犬をそろえた,型のごときひとりの郷士が住んでいた。昼は羊肉よりも牛肉を余分につかった煮込み,たいがいの晩は昼の残り肉に玉ねぎを刻みこんだからしあえ」とあり,「羊肉より牛肉を余分につかった煮込み(鍋); Una olla de algo mas vaca que carnero」のオジャolla(深鍋)は,後にコシードcocido(茹でる・煮るの意味)となり,料理道具ollaから料理法cocidoに変わったとされる。当時は羊肉が高価で,農耕等で使役した年老いた牛の肉を食べていたと言うことで,ドン・キホーテは貧しかったとされる。コシード(コジート)は,最初に,肉などの煮込み部分(西洋風おでんと称される)を食べ,残った煮汁にパスタを入れて食べられることもある。なお,オジャollaは日本の鍋料理の締めのおじや(雑炊)になったとの俗説があり,以下の状況により一概に俗説とばかりは決めつけられない。このコシードが南蛮から伝えられ,日本料理化したものがくしいと(くじいと)であると推定される。

言及状況

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