- 著者
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川瀬 成吾
小西 雅樹
上原 一彦
- 出版者
- 養賢堂
- 雑誌
- 農業および園芸 (ISSN:03695247)
- 巻号頁・発行日
- vol.93, no.9, pp.808-822, 2018-09
淀川流域は日本最古の湖・琵琶湖を主水源に持ち,広大な氾濫原環境を有するという地質的・地理的要因から,生活史のすべてを淡水域で過ごす純淡水魚類の種数が河川としては日本でもっとも多いことで知られる。当流域には,天然記念物のイタセンパラやアユモドキParabotia curtus,固有のヨドゼゼラBiwia yodoensisやヨドコガタスジシマドジョウCobitis minamorii yodoensisなどの河川の氾濫によって生じた河川本流の周囲に広がる水域を好む魚類(=氾濫原性魚類)が多く生息し,上流の琵琶湖流域とは異なったユニークな生態系を有している。しかし,淀川の在来魚類は1960年代から水質汚濁,1970年代から河川改修による河道の水路化,ワンドやタマリの消失などによって激減している。さらに,2000年代に入り,オオクチバスMicropterus salmoidesやブルーギルLepomis macrochirusを中心とした外来魚類が急増し,イタセンパラやヨドゼゼラなど在来魚類の激減に拍車をかけている。1970年代から10年に1度実施されている淀川全域調査によると,1990年代までは総採集個体数に占める外来魚類の割合は2%未満だったものが2000年以降30%前後まで激増し,在来魚類の数は激減している。大阪府および京都府版レッドデータブックにリストアップされている淀川流域産魚類から減少要因を抽出すると,外来魚類がそれぞれ3番目および2番目に多く挙げられる状況となっている。私たちは川瀬ほかで淀川流域の外来魚類について網羅的に調査し,近年の分布や生息状況について初めて包括的に報告した。コクチバスMicropterus dolomieuの分布拡大やチャネルキャットフィッシュIctalurus punctatusの淀川での初報告,アリゲーターガーAtractosteus spatulaの生殖腺の発達が確認されるなど,従来のオオクチバス,ブルーギルに加えて新たな脅威が迫っている。