著者
松本 浩志
出版者
九州大学
巻号頁・発行日
2012

睡眠時ブラキシズムは、睡眠時に行われる、顎口腔系の非機能運動または異常機能と定義されており、睡眠時に行われるため意識的な抑制が難しく、非常に大きな力が発生することも少なくない。睡眠時ブラキシズムは、その過度の力により歯の摩耗・歯周組織の破壊・歯科補綴装置およびインプラントの破損などの歯および歯周組織に関係するトラブルや、咬筋肥大・咀嚼筋の疼痛等を伴う顎関節症などの筋骨格系のトラブルの要因の一つと考えられ、顎口腔系組織に様々な悪影響を与えており、過去にも多くの研究がなされてきた。最近では、睡眠時ブラキシズムは微小覚醒を伴う中枢性の活動によって生じるものとの見解が主流になっている。しかしながら、末梢性の刺激は睡眠時ブラキシズム活動に何らかの影響を与えている可能性が報告されており、睡眠時ブラキシズムの明確な病態メカニズムの解明には至っていない。現在、睡眠時ブラキシズムに対する最も一般的な対処法として、オクルーザルスプリントが使用され、一定の効果は認められたとする報告があるものの、その作用メカニズムは明確にされていない。そこで本研究では、睡眠時ブラキシズムに対するオクルーザルスプリントの効果的な治療プロトコールの検討を目的とした。第1章では、ブラキシズムに関する基本的な事項について言及し、本研究を行うに至った経緯をまとめた。第2章では、スプリントが睡眠時ブラキシズムに与える影響に関する文献レビューを行い、現時点で得られているエビデンスを整理した。その結果、これまでに形状や使用法の異なる様々なタイプのスプリントが開発されてきており、それぞれ一定の効果が示されている。しかし、それらの安全性や臨床研究で得られたデータの信頼性等に疑問点が残り、確実に効果のある治療法はなかった。一方、スプリントの作用メカニズムに関して様々な仮説が示されているが、口腔内環境の変化が睡眠時ブラキシズム活動を減少させるという行動療法的なメカニズムが提唱され、それを支持する研究が複数みられるものの、現在のところ明確な結論は得られていなかった。第3章では、スタビライゼーションスプリントの間歇的な使用が睡眠時ブラキシズムに与える影響を明らかにすることを目的としてランダム化比較試験を行った。当教室の先行研究において、スプリント装着直後に睡眠時ブラキシズムは減少するが、その効果は長期間持続せず一時的であることがわかっている。この結果を踏まえ、スプリントを間歇的に使用することで、睡眠時ブラキシズムをより効果的かつ長期に減少させられるのではないかと考え、以下の手順で本研究を行った。九州大学歯学部学生および九州大学病院職員のうち睡眠時ブラキシズムを有する者20名(男性9名、女性11名、平均年齢28.9歳、24〜37歳)を対象に、スプリントの連続使用群(30日間連続使用)と間歇使用群(7日間ずつ使用・不使用を繰り返す:1-7日目および15-21日目、29-30日目にスプリントを使用)との2群にランダムに振り分け、各群ともにスプリント装着前・装着直後・1週後・2週後・3週後・4週後の計6回の測定ポイントにおいて、携帯型筋電図測定装置を用いて睡眠時咬筋筋活動を測定した。得られた筋活動を解析し、睡眠1時間あたりの睡眠時ブラキシズムの発生回数(EVENT)・総持続時間の割合(DURATION)・総活動量(AREA)を算出し、各測定ポイントにおけるスプリントの効果を検討した。その結果、EVENTおよびDURATIONにおいて、連続使用群で装着直後に睡眠時咬筋筋活動の減少がみられたが(Dunnett’s test, P<0.05)、その後の測定では有意な減少がみられなかった。一方、間歇使用群では装着直後に加え4週後にもEVENTおよびDURATIONにおいて有意な咬筋筋活動の減少がみられた(Dunnett’s test,P<0.05)。連続使用群における結果は当教室の先行研究と一致しており、スプリントは装着直後に効果を発揮し、その効果は1週間以上持続しないことが示唆された。また間歇使用群においては、装着直後のみならず4週後においても有意な減少がみられた。今回の結果から、スプリントを間歇的に使用することで、より長期に咬筋筋活動を減少させられる可能性が示唆され、オクルーザルスプリントを間歇的に使用するという、新たな使用法とその効果について示すことができた。これは、スプリントがSBに与える効果およびメカニズム解明の一助になったと考える。

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@sz650w 2012年に睡眠中に歯ぎしりをする20名に対し行ったの九州大学の研究では、片顎にだけ装着のマウスピース(ナイトガードとも呼ばれています)では装着直後には効果を発揮するが、その効果は1週間以上持続しないとの報告あります https://t.co/HgytaKBPJg

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