著者
稲田達也 鈴木由美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 社会人基礎力は,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として経済産業省が2006年から提唱する概念である。 中学校・高校における課外活動の中で大きな割合を占めるのが部活動である。部活動に関する研究は数多くあり,青木(2005)は,運動部所属群は無所属群及び文化部所属群よりも社会的スキルが高いことを明らかにした。郡司・伊藤(2010)は,部活動への参加経験が長いほど学校への適応感が高まり,規範意識が増大することを示唆している。上野・中込(1998)は,運動部員は部活動に参加していない生徒よりも,運動部活動場面における心理社会的スキル(競技状況スキル)を獲得しており,またそれが般化する形で競技状況スキルと同種の側面を持つライフスキルを獲得できることを明らかにした。中学校・高校における部活動と心理的発達の関連に焦点を当てた論文は数多く見られ,中学校・高校の部活動を通して,社会人基礎力も向上すると考えられるが,具体的に両者の関係に焦点を当てた研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,中学校・高校での部活動で身についた力(部活動能力)がどのように社会人基礎力に影響するかを明らかにすることを目的とする。方 法 中部地方公立A大学1〜4年生326名を対象に平成27年4月に質問紙調査を行った。回答を求めた項目は以下の通りである。1.個人属性:性別,中学校・高校での部活動系列(運動部か文化部か),活動期間(引退の時期まで続けたか,途中でやめたか)の回答を求めた。2.部活動能力尺度(自作):予備調査より得られた部活動能力尺度について,5件法で回答を求めた。3.改訂版社会人基礎力尺度(西道):西道(2011)が作成した40項目の「改訂版社会人基礎力尺度」を用い,5件法で回答を求めた。なお,改訂版社会人基礎力尺度(西道)は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「伝える力」「チームで働く力」の4因子構造である。結果と考察 個人属性と部活動能力尺度(自作)の各因子を独立変数とし,改訂版社会人基礎力尺度(西道)の各因子を従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を性別ごとに行った(Table 1,2)。その結果、男子では,部活動能力尺度の「分析・戦略」「キャプテン・統率」因子が,女子では「チームワーク・対人」因子が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが読み取れた。次に,男子では部活動能力尺度の「根性・努力」「規範・礼儀」因子が,女子では「根性・努力」因子が,社会人基礎力にはほとんど影響しないということが明らかになった。最後に,個人属性と部活動能力はともに社会人基礎力に影響しているが、個人属性よりも部活動能力が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが明らかになった。

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