- 著者
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東宮 昭彦
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2016年大会
- 巻号頁・発行日
- 2016-03-10
マグマ溜まりおよび噴火直前マグマプロセスとその時間スケールに関しては,近年理解が進んでいる[たとえば東宮 (2016: 火山特集号) のレビューとそこで引用した各文献を参照].熱的に維持されていないマグマ溜まりは,冷却固化しやすいためにマッシュ状(結晶含有量が40〜50%以上で高粘性のためほとんど流動できない状態)にあることが多い.この場合,噴火するためには,マッシュ状マグマ溜まりを「再流動化」(例えば加熱)させ,「噴火可能なマグマ」(地表に向け上昇できるほど低粘性のもの)を用意する必要がある.こうした火山では,何らかのトリガー(深部からの高温マグマの供給など)が与えられても,ただちに噴火はしにくい.逆に,噴火可能なマグマが既に溜まっている火山では,トリガーがあれば短時間で噴火が可能であろう.従って,噴火休止期間と噴火トリガーの時間スケールとは正相関し得る.Passarelli and Brodsky (2012: Geophys. J. Int.) が指摘した噴火休止期間と前兆期間の正相関の一部は,これに対応するかもしれない.数十年以内の間隔で噴火を繰り返す活火山には,噴火可能なマグマが溜まっている可能性が高い.例えば,有珠火山の歴史時代の噴火(1663年〜)の場合,各噴火の斑晶の累帯構造の比較から,この間のマグマ溜まりは斑晶の成長および元素拡散が効果的に起こる温度以上にあったことが分かっている (Tomiya and Takahashi, 2005: J.Petrol.).また,斑晶(磁鉄鉱)の元素拡散から見積もった噴火直前過程(直前のトリガーから噴火まで)の時間スケールは数日程度であり,これは記録・観測された前兆地震期間と整合的であった.マグマ溜まりに「噴火可能なマグマ」が存在していたために,トリガーから数日以内に噴火が起こったと考えることができる.噴火の間隔(休止期間)が数百年になると,噴火可能なマグマは存在しても少量であろう.例えば新燃岳2011年噴火は,前回のマグマ噴火から約200年が経過していた.岩石学的解析から,噴出物の主体をなす混合マグマはマッシュの再流動化でできていること,その生成には数十日以上,おそらく前兆地殻変動期間である1年程度を要したと見積もられた (Tomiya et al., 2013: Bull.Volcanol.).[なお,噴火を最終的に引き起こした直前トリガーは噴火のおよそ3日以内と見積もられ,この時点では噴火可能な状態が整っていたと考えられる.]休止期間が数千年になると,噴火可能なマグマはほぼ無くなっているだろう.例えば有珠火山1663年,樽前火山1667年,北海道駒ヶ岳1640年噴火が該当する.このうち有珠火山1663年噴出物中の斑晶は,自形かつ均質でマグマから平衡に晶出したと考えられるので,結晶サイズ分布 (CSD) からマグマ中の滞留時間を見積もったところ,およそ102〜103年(ただし誤差が1ケタ程度ありうる)であった (Tomiya and Takahashi, 1995: J.Petrol.).つまり,噴火可能なマグマの準備におそらく数十年程度は要したと考えられる.[なお,樽前や北海道駒ヶ岳の斑晶はきわめて不均質/非平衡であるため同じ手法が使えない.]休止期間以外にも,たとえばマグマ溜まりの深さ(圧力・含水量)が噴火直前過程に影響を与え得る.高圧・高含水量の条件では,より低温でマッシュの融解が進行し,多くの珪長質メルト(e.g., 流紋岩マグマ)を効率的に生産できる.高含水量では珪長質メルトの粘性も低く,融解で結晶粒間に生じたメルトが分離・集積しやすい.逆に,低圧・低含水量では,マッシュの融解に高温が必要で,珪長質メルトの生産効率は低い.前述の有珠火山1663年マグマのマグマ溜まりの条件は,高温高圧実験により 約250MPa (10km)・780℃ と見積もられた (Tomiya et al., 2010: J.Petrol.).一方,樽前火山1667年および北海道駒ヶ岳1640年マグマについて,MELTSでマグマ溜まりの条件を予察的に求めたところ,いずれも約100MPa (4〜5km)・900〜950℃ と低圧・高温になった.有珠火山1663年は斑晶に乏しい流紋岩マグマであり,高圧・高含水量・低温で効率的に流紋岩質メルトが生成・分離・集積して噴火した可能性がある[均質な斑晶はメルト分離後に成長した].一方,樽前と北海道駒ヶ岳は斑晶に富む安山岩マグマであり,低圧・低含水量のもと,「噴火可能なマグマ」の生産に高温を必要としたとともに,珪長質メルトが分離せずマッシュの結晶ともども噴火したと考えられる.