著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

「4.2kaイベント」は,2018年に完新世の中期/後期境界として定義された.その特徴は,世界の主要な文明の劣化/崩壊を招いた気候イベントということで,注目を浴びることとなったが,気候プロセスの解明は遅れている.日本では縄文時代最大規模の三内丸山遺跡(5.9-4.2 cal. kyr BP)がこの時期に崩壊した.陸奥湾で採取した堆積物柱状コア中の間接指標の詳細な解析を行ったところ,期間全体にわたり水温・気温ともに環境が温暖だったと示唆された.1人1日あたり2,000Calに匹敵する食料が人々の生活には必要であるとの条件を設定すると,「狩猟・採取」で十分な食糧を得るには,一人あたり1平方kmの面積の森林が必要とされる.食糧の単位面積あたりの生産密度は,人工的に森林に手を加える「半栽培」によるクリの場合,通常の森林の66倍,弥生時代の「水稲栽培」に至っては400倍にも及ぶ.三内丸山遺跡で気候最適期を謳歌した時期には,クリの「半栽培」による高食糧生産密度により,人々は大集落を形成した.しかし, 2.0℃の寒冷化となった「4.2kaイベント」時には,夏季アジアモンスーンの変調によりジェット気流の中心軸が南下し,低緯度域の温暖湿潤な大気が中高緯度に北上することができなかった.これにより「半栽培」が成立せず,大集落は崩壊し,人々は再び「狩猟・採取」の生業に戻った.近年行われた,現代人のゲノムに基づく過去の相対的な人口動態の推定によると,「4.2kaイベント」時に日本に生活していた縄文系の人々に特有のミトコンドリアDNAのハプロタイプには人口の変化はほとんどなく,これは考古学的知見と調和的であった.対照的に,当時,日本への移住以前に,大陸で生活していた弥生系の人々のミトコンドリアDNAのハプロタイプには,厳しい寒冷化による人口減少が認められた.この事実は,「人のミトコンドリアDNAのハプログループに,古気候/古環境が記録される」ことを示唆しており,気候と人類集団の移動を解析する際に,威力を発揮すると期待される (Kawahata, 2019, Progress in Earth and Planetary Science 6:63, https://doi.org/10.1186/s40645-019-0308-8).

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日本では縄文時代最大規模の三内丸山遺跡が「4.2kaイベント」の時期に崩壊した 現代日本人の2つの代表的なグループのミトコンドリアDNAに記録された「4.2kaイベント」への異なった呼応https://t.co/8MEcBDGLM0

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