- 著者
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美山 透
- 雑誌
- JpGU-AGU Joint Meeting 2020
- 巻号頁・発行日
- 2020-03-13
教育の中で海洋が取り扱われる意義は、生活をとりまく環境の認識、各国と共有される資源への意識(漁業、海洋汚染など)、自然災害への理解(津波、高波、エルニーニョ、地球温暖化など)などが挙げられる。ここでは、これらの話題が高校教育に取り上がられているか、適切に説明されているかについて、「地理A」(6冊)、「地理B」(3冊)、「科学と人間生活」(5冊)、「地学基礎」(5冊)、「地学」(2冊)レビューした。講演者は専門が海洋物理学であり、その視点が中心になる。同じ教科でも出版社により個性があるものの、要旨では教科毎の概観を記す。 「地理B」は上記した話題を多かれ少なかれ網羅している。全教科書に海流図とともに、海流に関する概説がされている。海流の成因についても説明が試みられているが、その説明は危うい。例えば、3冊中の2冊で「吹送流」という言葉が出てくるが、いずれも誤用である(誤例、「親潮や黒潮も吹送流の一つである」)。「吹送流」は高度な内容と考えられているのか「地学基礎」では導入されておらず、「地学」になって正しく導入されている。地理では特有の用語が使われる例があり、黒潮に「日本海流」という別名があるのはその例である(2冊で例、1冊にはないが同じ出版社の地図帳に例)。地学の教科書では「地学基礎」の1冊の例外を除けば「日本海流」は使われていない。 「地理A」は「地理B」に比べると海洋への記述が少なく、海流の紹介はほぼ西岸海洋性気候に関連づけるだけのためにある。世界の漁業に関する記述も無くなる。「地理B」では全教科書にエルニーニョが取り上げられているが、「地理A」では6冊中2冊のみである。 「科学と人間生活」は海の取り扱いは小さく、海流図が載っている教科書は5冊中で全球海流図が1冊、日本付近の海流図が1冊のみに取り上げられている。エルニーニョが取り上げられている教科書はない。地球温暖化は扱い自体が他科目に比べて比較的消極的で、1冊のみに海面上昇の可能性が触れられていた。 「地学基礎」は、海流を取り上がるだけでなく、その成因の説明が求められるが、「地学」ほど高度な概念を使えないという制約のある教科である。そのためか、説明の質が教科書ごとに大きく違う。同じ出版社でも、「地学」では「地球の自転による転向力のため海水の流れは風の向きとは一致せず」から解説を始めているにもかかわらず、「地学基礎」では(海流は「平均的に見ると風の向きとよく対応する」という解説にしている例も見られた。 「地学」の2冊は、渦度などの概念が使えない中で、海流の成因やエルニーニョの説明にベストを尽くしている。その中でも、海流図や、海流の成因の説明のアプローチ、地球温暖化の積極性に違いがあり、2冊には個性の違いがある。