著者
久保田 達矢 近貞 直孝 日野 亮太 太田 雄策 大塚 英人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

沖合の海底に設置された海底圧力計 (Ocean bottom pressure gauge; OBP) は,これまでスロースリップや巨大地震後の余効変動による地殻変動の検出や地震発生の物理の理解に大きな役割を果たしてきた (e.g., Ito et al. 2013 Tectonophys; Iinuma et al. 2016 Nature Comm; Wallace et al. 2016 Science).2011年東北沖地震を受け,東北日本沈み込み帯では日本海溝海底地震津波観測網 (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench; S-net) が展開された (Kanazawa et al. 2016).本観測網におけるOBPは東北日本沈み込み帯における地殻変動シグナルの検出に大きな役割を果たすと期待される.本研究ではS-netのOBPを用いた地殻変動の検出に向け,数日から数週間程度の時間スケールの定常的な変動について,近傍に展開された東北大学の自己浮上式OBP (Hino et al. 2014 Mar Geophys Res) と比較を行い,その品質を評価した.本研究では低周波微動 (Tanaka et al. 2019 GRL; Nishikawa et al. 2019 Science) や超低周波地震 (Matsuzawa et al. 2015 GRL; Nishikawa et al. 2019) などのスロー地震活動が活発な岩手県三陸沖の海域に着目した (Figure 1a).S-netの記録を目視で確認し,海洋潮汐を比較的精度よく観測できている品質の良い観測点 (近貞ほか 2020 JpGU S-CG70) にのみ注目し,比較を行った.また,近傍に展開された東北大学OBP観測と観測期間が重なっている2016年の約2ヶ月間の記録を比較した.解析では両者の記録を30分値にリサンプルし,BAYTAP-G 潮汐解析プログラム(Tamura et al. 1991 GJI) を用いて潮汐変動成分を推定し,また線形ドリフト成分を推定した.解析の結果,推定された潮汐変動はよく一致した (Figure 1b –1e).潮汐変動成分ならびに線形ドリフト成分を取り除き,圧力時系列の標準偏差σを計算したところ,東北大のOBPではσ = 2.6 hPa (観測点SN2, Figure 1b) および σ = 2.2 hPa (観測点SN4, Figure 1c)であった.これらの観測点に最も近いS-netのOBPではσ = 11.4 hPa (S4N11, Figure 1d),σ = 3.5 hPa (S4N22, Figure 1e) となった.これ以外のS-netのOBPも含め,標準偏差は東北大のOBPよりも系統的に大きかった.また,S-netのOBPの記録では数日かけて10 hPa以上変化するような圧力変動が見られた (Figure 1de).このようなシグナルは,ごく近傍に設置された東北大OBPでは見られなかったことから,海洋物理学的な変動に起因するものではないと考えられる.また,いずれのOBPにおいてもParoscientific社製のセンサを使っていることから,センサの違いに由来するものでもないと思われる.両者の異なる部分として,S-netでは水圧センサが油で満たされた金属製の耐圧筐体の内部に封入されており,直接海水に触れているわけではない,という点が挙げられる.圧力観測の方式と,原因不明の圧力変動の因果関係は今後さらに詳細に検討する必要がある.ここまでの検討から,比較的品質の良いOBP (S4N22) では,東北大OBPよりわずかに劣る程度の地殻変動検出能力を持つと考えられる.一方,品質のさほど高くないOBP (S4N11) では数日をかけて大きく圧力が変動することがあるため,数日程度のタイムスケールの地殻変動現象の検出は難しいことが示唆される.非潮汐性の海洋変動成分 (Inazu et al. 2012 Mar Geophys Res; 大塚ほか 2020 JpGU S-CG66) を取り除くことにより地殻変動検知能力が向上することが期待されるが,そのためには,まずはS-net水圧計の比較的短期間での圧力変動の原因をさらに詳細に検討し,それらの成分を取り除く必要がある.

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