著者
栁澤 琢史
雑誌
第43回日本神経科学大会
巻号頁・発行日
2020-06-15

脳情報の解読と制御は神経科学の発展に伴って現実的な技術となり、様々な医療応用が期待されている。脳波や脳磁図、fMRI、NIRSなど様々な脳信号に対して機械学習を適用することで、知覚認知内容や運動状態などを推定できる(脳情報解読、Neural Decoding)。また、Neural decodingの結果に基づいてロボットやコンピュータを脳信号から制御できる(Brain-Computer Interface, BCI)。我々は、人の頭蓋内に電極を留置して脳波を計測する皮質脳波に対してNeural decodingを適用し、ロボットハンドを制御するBCIを開発した。特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)により重度の運動機能障害がある患者に対して、感覚運動野へ頭蓋内電極を留置しBCIの有効性を評価する臨床研究を行い、重度麻痺があってもBCIにより意思伝達できることを示した。しかし、ALS患者では進行性に運動野活動が減弱するため、運動情報に基づくBCIには限界がある。そこで、後頭葉や側頭葉などALS患者でも比較的、機能が保たれる領域から皮質脳波を計測することで、意思伝達を実現するBCIを目指している。多様な意味内容の動画を視聴している際の皮質脳波を計測し、動画の意味内容を、word2vecを用いてベクトル化し、これを皮質脳波から推定し、視覚的意味内容推定に基づくBCIを開発した。 BCIは、neural decodingを介して、脳と機械がインタラクションする技術でもある。脳がBCIを介してどの程度の情報を操作できるか、また、BCIの操作に習熟することで、脳にどのような変化が誘導されるのかは、BCIの可能性を知り安全性を高める上で重要な神経科学的問題でもある。我々は脳磁図を用いた非侵襲型BCIを開発し、様々なBCI操作に習熟することによる脳活動及び神経症状の変化を探索した。特に感覚運動野の皮質活動に基づいたBCIによりロボットハンドを制御し、これを上肢に幻肢痛がある患者に適用したところ、BCI使用後には、患者の感覚運動野に可塑的変化が誘導され、幻肢痛も制御されることを明らかにした。同様の方法は視覚認知機能の修飾などにも効果が期待される。 異常な脳活動状態に起因する精神神経疾患に対して、Neural decodingを用いた活動状態の解読と、neurofeedbackによる活動修飾は、新たな治療オプションになると期待される。脳情報の解読と制御を神経科学的に理解し、精神神経疾患の新しい診断·治療につなげる我々の取り組みを紹介する。 .

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