著者
彦坂 佳宣
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.110-124, 2010-10-01

『方言文法全国地図』第38図「寒いけれども〜」を逆接確定条件の代表とし、言語地理学的、文献方言学的解釈を試みた。新古の点は、日本の外輪に(1)バッテ(ン)類と(2)ドモ類、中輪に(3)ガ類、中央に(4)ケレド(モ)類の分布から、(4)(3)(2)の新古順とした。(1)は、分布様態と、古く仮定条件でその後の確定化の経緯から(2)に遅れて局地的な発生と考えた。接続法では、もと已然形承接の(1)(2)が終止形承接となったが、この類は「旧・已然形+バ」の主要仮定条件類の周辺分布域とほぼ一致し、この承接法が仮定用法化した時期に承接法を変えたと考えた。伝播面では、古い(1)(2)(3)は近畿中央から全国に、新しい(4)は上方で盛行し江戸に伝播した2極放射で、圧迫されたガは東西ごとの周辺分布となり、中国地方では理由ケーニと同音衝突もあって残存したと見た。近世方言文献からは、今日への途上、ないしほぼ現況に近い模様が出来ていたと推測した。
著者
彦坂 佳宣
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.61-75, 2006-10

準体助詞には,本州ノ,九州ト,土佐・北陸・山陰ガ,新潟県ガン,山形県ナ等がある。地理学的には連体格から発達したノ・ガが新・古の関係,ト・ナは地域性が強くて更に古く,格助詞トとナリに由来すると推定した。文献からは,ノは中央語である近畿で近世初期には発達したとされ,恐らく江戸も同じ。一方,新潟・土佐・九州の近世方言文献によれば,他の形式もこれに遅れない時期に独自に発達したと考えた。その分布要因は,ノ・ガの尊卑表現と連体格/主格の構文分担機能とが関連し,ガは周辺地域で前者が,ノは中央地域で後者が優位の時期に発達し近隣へ伝播したと推測した。発展的用法であるノニ・ノデ・ノダ等の論理的表現は中央語が先かと思われ,地方語との差異も見られる。
著者
彦坂 佳宣
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

『方言文法全国地図』の文法地図のうち、(1)意志・推量表現(2)原因・理由の条件表現(3)仮定条件表現(4)格助詞ノ・ガ(5)準体助詞(6)活用事象を中心に、言語地理学的研究と過去の方言文献による突合せとをおこない、そこから全国方言における伝播類型をさぐったものである。伝播類型としては、(1)〜(4)は方言周圏論的な型であり、(1)(2)の一面は東西対立型の面もある。(4)(5)は方言周圏論的な型とも言えるが、個別事象が分散的に分布する型という面も強い。(6体系の点では逆方言周圏論的な型として、辺境地域で新しい傾向が強くみられるものもある。(1)の方言周圏論的型に東西対立的な模様も見られるものは、古くから中央である近畿地方からの変化の放射が西日本には頻繁に届くのに対し、東日本には緩慢である動向によると思われる。この東西対立的な傾向は(2)にも一部見られる。分散的分布は、各地に独自の変化が見られて、分布が孤立的・分散的になるものである。これは文法事象が地域独自の変化方向に従ったからと考えられる。その例の(5)準体助詞は、九州ト、土佐・北陸ガ、新潟ガン、東北日本海側ナなどがあり、ガに着目すれば方言周圏論的型とも言えるが、全体としては出自の違うものが固有の変化を遂げたものと考えられる。分布類型がこれだけではないが、主要な型はここに現れていると考える。
著者
彦坂 佳宣 Yoshinobu HIKOSAKA
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
vol.17, pp.65-89, 2005-04

立命館大学原因・理由の接続助詞について,『方言文法全国地図』と各地の過去の方言文献とを対照してその歴史を推定した。基本的には京畿から「已然形+バ」→カラ→ニ→デ→ケン類→ホドニ→ヨッテ→サカイの放射があったと考えた。西日本にはこれらの伝播が重なり,東日本ではカラ辺りまでで,西高東低の模様がある。それは京畿からの地理的・文化的距離やカラの接続助詞化の経緯差によるところが大きいと考える。カラの他にデ・ケン類・サカイなどもかなり地域的変容が想定され,上の放射順が必ずしも順当に受容されたとは限らない。また,標準語のカラとノデに似た表現区分をもつ中央部ともたない周辺部とに分析的表現に関わる差異があり,中央語と地方語との性格の違いも認められる。
著者
彦坂 佳宣
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.110-124, 2010-10-01 (Released:2017-07-28)

『方言文法全国地図』第38図「寒いけれども〜」を逆接確定条件の代表とし、言語地理学的、文献方言学的解釈を試みた。新古の点は、日本の外輪に(1)バッテ(ン)類と(2)ドモ類、中輪に(3)ガ類、中央に(4)ケレド(モ)類の分布から、(4)(3)(2)の新古順とした。(1)は、分布様態と、古く仮定条件でその後の確定化の経緯から(2)に遅れて局地的な発生と考えた。接続法では、もと已然形承接の(1)(2)が終止形承接となったが、この類は「旧・已然形+バ」の主要仮定条件類の周辺分布域とほぼ一致し、この承接法が仮定用法化した時期に承接法を変えたと考えた。伝播面では、古い(1)(2)(3)は近畿中央から全国に、新しい(4)は上方で盛行し江戸に伝播した2極放射で、圧迫されたガは東西ごとの周辺分布となり、中国地方では理由ケーニと同音衝突もあって残存したと見た。近世方言文献からは、今日への途上、ないしほぼ現況に近い模様が出来ていたと推測した。
著者
彦坂 佳宣
巻号頁・発行日
no.21,
著者
彦坂 佳宣
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

『方言文法全国地図』の意志・推量、条件表現、敬語類などの言語地理学的研究に、国語史の知見、また特に近世期地方方言文献を探索・考察した研究により、およそ5 種の伝播類型を見出し、それによる日本語形成史を試論的に考察した。