著者
海野 肇 けい 新会
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

上下水の最終処理に広く用いられている塩素消毒は残留微量有機物質との反応によってトリハロメタン等の発ガン性物質を生成する可能性が大きく,その代替法として紫外線処理法が注目されている.一方,紫外線殺菌により一旦不活性化された細菌は近紫外線によって再び活性化するという現像がある.本研究では,最近水環境汚染の一つとして指摘されている腸管系ウイルスについて,紫外線処理による不活化過程を検討した上で,その不活化したウイルスの近紫外線照射下での挙動を調べた.実験には,ポリオウイルス1型のワクチン用弱毒株(LSc.2ab株)を用いた.紫外線によるウイルスの不活化実験は低圧水銀ランプ(波長253.7nm)の真下に一定濃度のウイルスを添加したPBS溶液を置き,異なる紫外線強度の条件下で連続攪拌して行った.また,紫外線処理したウイルスに波長300〜400nmの近紫外線を照射しウイルス活性の変化を調べた.ウイルス活性はプラーク形成法により評価した.紫外線照射によるウイルスの不活化過程は,いずれの紫外線強度においても紫外線量(強度と時間の積)増加と共に一次的に減少した.しかし,大腸菌の不活化に比べて同程度の不活化率を得るにはかなり大きい線量の照射が必要であった.また,異なった紫外線線量下で不活化したウイルスは近紫外線照射と未照射とでは同様な挙動をし,光による活性回復(光回復)現象を示さなかった.これは紫外線照射したウイルスと細菌への近紫外線の影響が異なったことを示した.本研究の結果から,上下水の紫外線処理法では,細菌の光回復による活性化を問題視する必要があるが,ウイルスはそのような問題がないことがわかった.