著者
こまたん 畑中 優美 吉村 理子
出版者
日本野鳥の会 神奈川支部
雑誌
BINOS (ISSN:13451227)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.49-68, 2016-11-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
7
被引用文献数
4

神奈川県大磯町高麗山で2015年4月18日~10月10日まで野外のアオバトの鳴きの声を録音して鳴き声の解析を行った。併せて保護アオバトの鳴き声を録音して鳴き声に個体差があるのかを検討した。1)アオバトの鳴き声にはオアオ鳴きとポポポ鳴きの二種類があるのを確認した。調査地でのオアオ鳴きは5月2日の鳴き声初認~10月10日の最終調査日まで聞かれ、ポポポ鳴きは5月2日のオアオ鳴き初認日~8月7日まで聞かれた。2)アオバトの標準的な鳴き声は句1~句10で構成されるソング(オアオ鳴き)であることが分かった。参考に鳴き声をカタカナ表示すると『オオゴアッゴ(句1)、オー(句2)、オー(句3)、オアオ(句4)、オアオ(句5)、アオアーオ(句6)、オーアー(句7)、アーオアオ(句8)、オアオ(句9)、オー(句10)』という鳴き声に聞こえる。3)野外アオバトの全鳴き声の句1~句10の全鳴き声の周波数範囲(ソング内最低周波数最小値~ソング内最高周波数最大値)617Hz~1242Hz。平均値は714Hz~1066Hzであった。4)ソング内最低周波数に該当する句は、句2で全体の96.7%が句2に集中している。5)ソング内最高周波数に該当する句は、句6が全体の61.1%、句8が22.2%で合わせると83.3%を占めてほぼこの二つの句に集中している。6)ソング内最低周波数が上昇するとソング内最高周波数も上昇するという相関関係にあり平均値ではソング内最低周波数713Hzに対してソング内最高周波数は1072Hzで周波数上昇幅は359Hzであった。7)全鳴き声の句1~句10までの各句長さの範囲は0.38~3.42秒。平均値は0.88~2.38秒であった。8)各ソング内長さの最小値に該当する句は、句5が32.2%、句9が35.6%、句10が22.2%でこの3つで90.0%を占めている。該当する句の長さの範囲は0.38~1.07秒。9)各ソング内長さの最大値に該当する句は、句1が36.7%、句7が45.6%の2つで82.3%を占めている。該当する句の長さの範囲は1.76~3.42秒。10)全鳴き声のソング長さの範囲は18.29~25.39秒。平均値は22.33±1.42秒(SD)であった。11)保護アオバトの各句最高周波数も行徳12オスの句10の1ヶ所を除いてすべて野外アオバトの鳴き声の周波数範囲内にあった。12)保護アオバトの各句の長さ(時間)も野外アオバトの鳴き声の長さの範囲内にあった。13)保護アオバトの鳴き声は個体ごとに声紋の形が違うことが分かった。14)各句最高周波数の野外アオバト全数各句の標準偏差と保護アオバト各句の標準偏差の平均値を比較すると野外アオバト全数の各句は1.9~3.9倍バラツキが大きい。15)ソング長さの野外アオバト全数標準偏差と保護アオバト標準偏差の平均値を比較すると野外アオバト全数ソング長さは3.5倍バラツキが大きい。16)保護アオバト3個体は年を経ても鳴き声の最高周波数や長さの計測値のバラツキは小さく、声紋の形状変化においても大きな経年変化はなかった。17)ソング長さと句2の最高周波数の組み合わせで作成された散布図から、ソング長さと句2の最高周波数の最大値-最小値の幅(分布の範囲)の各最大値を利用して作成された分散範囲枠を当てはめると同一個体をおまかにクラス分けをすることが出来る。18)個体間の差異があること、個体間の差異よりも個体内の差異が小さいこと、個体の鳴き声は年を経ても大きくは変化しないことからアオバトの鳴き声を個体識別に使用することが可能である。
著者
こまたん
出版者
日本野鳥の会 神奈川支部
雑誌
BINOS (ISSN:13451227)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.15-25, 2017-11-01 (Released:2020-01-12)
参考文献数
6
被引用文献数
2

神奈川県大磯町照ヶ崎海岸に飛来するアオバトを観察していると、稀に喉から胸にかけて赤い色の個体(以下喉赤アオバト)が観察されている。今回照ヶ崎への飛来調査記録から、喉赤アオバトの飛来状況及び採食している果実の状況確認を踏まえ、喉赤アオバトの発生理由について検討した。 1 2010年~2016年の照ヶ崎でのアオバト飛来調査において、総観察羽数168610に対して喉赤アオバトは177羽観察され、その出現率は0.10%だった。 2 2010年~2016年における喉赤アオバトの飛来は、主に6月~9月の間で特に6月、7月に集中し、9月に少数の飛来が再びある。8月は2012年(34羽)と2014 年(2 羽)を除き飛来はなかった。 3 2010年~2016年の観察時に、性別を識別できた147羽では、オスの比率:73.5% メスの比率: 26.5%だった。 4 2010年~2016年の観察において、喉赤アオバトはすべて成鳥のアオバトで幼鳥の喉赤アオバトは一度も観察はされなかった。 5 2016年の観察回数は他の年の倍以上実施できたので、2016年の記録を用いて詳細な検討を行った。 以下、2016年の記録についての検討結果を示す。 ①観察総数42529に対して喉赤アオバトは24羽観察され、その出現率は0.06%だった。 ②喉赤アオバトの飛来は、6月~9月の間で特に6月、7月に集中し、9月に少数の飛来が再びある。 8月は観察されなかった。 ③性別を識別できた20羽では、オスの比率:90%メスの比率:10%だった。 ④観察総数42529羽のうちオスの比率:39%、メスの比率:61%だった。観察羽数全体のオスに対する喉赤アオバトのオスの出現率は0.11%、同様にメスの出現率は0.01%。オスがメスに対して11倍の出現率だった。 ⑤喉赤アオバトの出現は大きく二つのグループに分かれていた。最初のグループ(第1回目)が6月19日~7月24日まで、2回目の出現が9月12日~9月26日まで。そして幼鳥第1 期が飛来したのが7月18日からだった。幼鳥第1期の観察が集中する7月下旬~9月上旬の間は喉赤アオバト(明らかに喉が赤い個体)は観察されなかった。 6 2010年~2016年の7年間の観察データから、各年度の喉赤アオバトと幼鳥第1 期の飛来は、まず喉赤アオバトが出現し、喉赤アオバト出現終了後に幼鳥第1 期の飛来が増加していくことがわかった。 7 喉赤アオバトの発生理由について複数の候補案を検証し、果汁が赤い色の果実が食べられている時期、および幼鳥が巣立つ時期とに関連が認められた。このことから、照ヶ崎に飛来する喉赤アオバトの正体はアオバト幼鳥の巣立ち~自立するまでの間に親鳥が果実を吐き戻して幼鳥に与える際に潰れた果実の赤い果汁が親鳥の口からこぼれ落ち喉や胸に赤い果汁が付着したものと考えるのが最も妥当な発生理由であった。
著者
こまたん
出版者
日本野鳥の会 神奈川支部
雑誌
BINOS (ISSN:13451227)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.13-29, 2019

<p>多摩動物公園野生生物保全センターで飼育されているオス1羽、メス2羽の計3羽の飼育下のアオバトの繁殖期における鳴き声をICレコーダーのタイマー録音機能を利用し録音した記録から分かったことを報告する。</p><p>1)繁殖の欲求が高まっていく2 週間ほどは頻繁に鳴くが、その欲求も徐々に薄れてピーク後56日間(8週間)程度でほとんど鳴かなくなったと考えられる。</p><p>日長時間の変化による季節周期と既日リズムに従って鳴いていたことがわかった。</p><p>2)1日に鳴いたオアオ鳴きの最大鳴き声回数(ピーク)でさえ僅か8回であることは、よく鳴く他の鳥とは鳴き声の機能が違う可能性がわかった。</p><p>3)3個体が全期間を通じて鳴いた95日で、朝最初に鳴いた個体は、L0686(オス)が83回で87%と突出している。1日(日の出前~日の入り頃)の連続録音した結果ではL0686(オス)の鳴くピークが早朝(日の出前)と夕方にあり、昼間はL0685(メス)の比率が高くなっている。このことからオスは早朝と夕方に、メスは昼間に鳴く欲求が高まるといえる。 これはアオバトの営巣中のオス、メスの分業形態(オスは昼間に抱卵育雛を、メスは夜間に抱卵育雛を担当)により、巣の外にいる時間帯に鳴く欲求が高まると考えられる。野外の繁殖調査(こまたん 2003)において、親鳥が巣の中で鳴いたことが無かったことと一致する。</p><p>4)今回の分析では降雨の有無や晴れ曇りによる照度 の違いは考慮しなかったが、少なくとも鳴き声の回数推移や鳴き出し時刻には一定の傾向が見られたことから、影響は小さいことがわかった。 </p><p>5)L0686(オス)は、今まではL0685(メス)の鳴き声に反応は見られなかったが野生のアオバトの鳴 き声に対して1分以内で鳴いた。また、7月中頃以 降は次第に鳴く回数が減少して、朝の5時間で多くても3回以下の時期にこの日の朝は5回鳴き、2日後も5回鳴いた、そしてその後は回数を減らした。これらのことから、一般的に鳴き声には求愛の機 能があるとされているが、求愛など一定の興奮を引き起こす要因となっている可能性もわかった。</p><p>6)調査期間を通した鳴き声の中で、唯一野生のアオバトと鳴き交わした際の鳴き声は、各句の周波数範囲の中に納まっていて、特異な鳴き声ではなかった。鳴禽類と異なり、個体が持っている固有の鳴き声はやはり一つだった。これは、アオバトは一つの鳴き声で複数の意味を持たせているのか、あるいは鳴き 声以外の方法によって必要な情報を交換していることがわかった。</p><p>7)オアオ鳴きの中に句10以降続けて鳴く(追加タイプ)ものがあった。追加タイプの個体はL0686(オス)で孵化後8年以上とも考えられる個体でオアオ鳴き151回のうち8回(5.3%)あった。他の2個 体については追加・復唱することは無かった。追加・復唱する鳴き方は性別には関係なく歳をとったアオバトがたまに発声するものであると言える。</p>