- 著者
-
こまたん
- 出版者
- 日本野鳥の会 神奈川支部
- 雑誌
- BINOS (ISSN:13451227)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, pp.13-29, 2019
<p>多摩動物公園野生生物保全センターで飼育されているオス1羽、メス2羽の計3羽の飼育下のアオバトの繁殖期における鳴き声をICレコーダーのタイマー録音機能を利用し録音した記録から分かったことを報告する。</p><p>1)繁殖の欲求が高まっていく2 週間ほどは頻繁に鳴くが、その欲求も徐々に薄れてピーク後56日間(8週間)程度でほとんど鳴かなくなったと考えられる。</p><p>日長時間の変化による季節周期と既日リズムに従って鳴いていたことがわかった。</p><p>2)1日に鳴いたオアオ鳴きの最大鳴き声回数(ピーク)でさえ僅か8回であることは、よく鳴く他の鳥とは鳴き声の機能が違う可能性がわかった。</p><p>3)3個体が全期間を通じて鳴いた95日で、朝最初に鳴いた個体は、L0686(オス)が83回で87%と突出している。1日(日の出前~日の入り頃)の連続録音した結果ではL0686(オス)の鳴くピークが早朝(日の出前)と夕方にあり、昼間はL0685(メス)の比率が高くなっている。このことからオスは早朝と夕方に、メスは昼間に鳴く欲求が高まるといえる。 これはアオバトの営巣中のオス、メスの分業形態(オスは昼間に抱卵育雛を、メスは夜間に抱卵育雛を担当)により、巣の外にいる時間帯に鳴く欲求が高まると考えられる。野外の繁殖調査(こまたん 2003)において、親鳥が巣の中で鳴いたことが無かったことと一致する。</p><p>4)今回の分析では降雨の有無や晴れ曇りによる照度 の違いは考慮しなかったが、少なくとも鳴き声の回数推移や鳴き出し時刻には一定の傾向が見られたことから、影響は小さいことがわかった。 </p><p>5)L0686(オス)は、今まではL0685(メス)の鳴き声に反応は見られなかったが野生のアオバトの鳴 き声に対して1分以内で鳴いた。また、7月中頃以 降は次第に鳴く回数が減少して、朝の5時間で多くても3回以下の時期にこの日の朝は5回鳴き、2日後も5回鳴いた、そしてその後は回数を減らした。これらのことから、一般的に鳴き声には求愛の機 能があるとされているが、求愛など一定の興奮を引き起こす要因となっている可能性もわかった。</p><p>6)調査期間を通した鳴き声の中で、唯一野生のアオバトと鳴き交わした際の鳴き声は、各句の周波数範囲の中に納まっていて、特異な鳴き声ではなかった。鳴禽類と異なり、個体が持っている固有の鳴き声はやはり一つだった。これは、アオバトは一つの鳴き声で複数の意味を持たせているのか、あるいは鳴き 声以外の方法によって必要な情報を交換していることがわかった。</p><p>7)オアオ鳴きの中に句10以降続けて鳴く(追加タイプ)ものがあった。追加タイプの個体はL0686(オス)で孵化後8年以上とも考えられる個体でオアオ鳴き151回のうち8回(5.3%)あった。他の2個 体については追加・復唱することは無かった。追加・復唱する鳴き方は性別には関係なく歳をとったアオバトがたまに発声するものであると言える。</p>