著者
小西 吉呂 外間 淳也 こにし よしろ ほかま じゅんや Konishi Yoshiro Hokama Jyunya 法経学部 法経学部
出版者
沖縄大学地域研究所
雑誌
地域研究 = Regional study (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
no.16, pp.23-46, 2015-09

本稿は、性犯罪・性暴力に対して主に刑法的視点から、その現状と課題を検討するものである。従来の刑法学にあっては、性犯罪被害者の議論が必ずしも活発に行われてきたわけではないが、近年の犯罪情勢や性犯罪に関する社会認識の広がり等を背景に、その重要性は高まっている。筆者らは、性犯罪・性暴力の被害が「先鋭化」する沖縄の実態に焦点を合わせつつ、被害者や市民の安心・安全に寄与しうる刑法の構築に努めた。わが国の刑法典が成立及び公布並びに施行してから優に100年が経過し、中には昨今の犯罪情勢からはかけ離れ、時代遅れと揶揄されている規定が存在することは否定出来ない事実である。中でも、性犯罪規定に対する批判は、最も痛烈なものの一つであろう。2014年10月末以降、継続的に開かれている性犯罪の罰則に関する検討会では、性犯罪被害者の救済という視点を中心として、法定刑の引上げ、性犯罪規定における構成要件の改正、親告罪規定の撤廃に関する議論がなされた。筆者らは、性犯罪規定の在り方に関して、性暴力被害の深刻な沖縄県の実態に即した形での主張を試みた。性犯罪規定改正の議論にあっては、法定刑の引上げがその中心となるきらいがあるが、問題の本質はその構成要件の在り方にあるという認識から、親密圏における性暴力被害者の実態をも可能な限り考察した。その結果、新たに「不同意わいせつ罪」といった暴行・脅迫を構成要件に含めない性犯罪の創設の可否や強姦罪における男女間の差違の撤廃を中心に主張している。性犯罪の罰則に関する議論において重要なのは、純粋にこの種の犯罪がもたらす法益侵害の重大性と向き合うことであると考える。しかしながら、新たな性犯罪被害を生まないという視点からは、加害者の性格や人間性に焦点を当てた再犯防止策の構築が重要な鍵となる。被害者と加害者の両方に配慮した刑法・刑事政策を考える際の一つの端緒として、筆者らは、ソーシャルインクルージョンからその示唆を得ようとした。今後もあらゆる角度から、慎重な検討を要する課題であると考える。