著者
アクィナス トマス 山口 隆介
出版者
聖泉大学紀要委員会
雑誌
聖泉論叢 (ISSN:13434365)
巻号頁・発行日
no.22, pp.27-39, 2014

トマス・アクィナスのマリア論は,一面においては,マリアの権威は神の母としてのものであり,したがってキリストのゆえにマリアは偉大であるとするものであるとされ,他面においては,マリアに独立の人格としての意義を認めるものであると論じられる.『天使祝詞講解』(以下『講解』)におけるトマスのマリア論も,上記の両面を有するが,マリアに独立の人格としての意義をより認めるものであると言える.『神学大全』Summa Theologiae および『神学綱要』Compendium Theologiae におけるトマスのマリア論が,理論上だけでなく構成上も,キリスト論の一部を構成する議論と位置づけられているのに対し,『講解』において はマリアが独立の主題となっている.本稿は『講解』のマリア論の上述した独自性に着目し,トマスのマリア論に別の角度から光を当てることを試みるものである.方法としては,『講解』の翻訳と註釈を交互に提示する.この作業を通じて,『講解』がマリアについてのどのような考察であるかを浮かび上がらせることが, 本稿の目標である.テキストとしては,In Salutationem Angelicam vulgo "Ave Maria,, Expositio, in: S. Thomae Aquinatis Doctoris Angeli Opuscula Theologica, vol.II., De Re Spirituali, cura et studio P. Fr. Raymundi M. Spiazzi O. P., Marietti, 1954, pp.237-241を用いた.マリエッティ版の神学小品集第2巻は,収録する全著作の節に通し番号を振っており,翻訳中の節番号は1110番から開始する.この訳は,訳者の知るかぎり初の日本語訳である.