著者
アルボレダ ピア
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.27-43, 2006-02-16

本論文はビノ・レアルヨの『傘の国』を女性学におけるガラトリ・スピバック(Gayatri Spivak)の理論を用いつつ分析したものである。その中核となる命題は,エストレラ(Estrella)と彼女の息子たちが影響力を持たない立場を占める一方,エストレラの夫である男性が権力のある立場にいるということに向けられる。『傘の国』は少年・グリンゴ(Gringo)の目を通して,マーシャル・ロー時代のフィリピンのスラム街での一家の生活について述べられている。グリンゴは母親のエストレラと父親のダディー・グルービー(Daddy Groovie),そして兄のピポ(Pipo)と暮らしている。ダディー・グルービーはニューヨーク(Nuyork)に行くことを夢みている。結果的に彼はその夢を叶え,息子たちと共にニューヨークで暮らす方法を見つける。小説のラストシーンでグリンゴは飛行機に乗るが,エストレラはフィリピンに残ることを決意する。この評論(Critique)は悲劇的な経験を持つ女性と談話する取り組みとして,エストレラに宛てた一通の手紙の形式で論をすすめる。そうすることで,自分自身がエストレラと似通った立場にいることを自覚する全ての女性たちに語ろうというのである。