著者
WESTERHOVEN J.N アンソニー・スコット ラウシュ 笹森 建英 畠山 篤
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

巻頭論文では地域の歴史を概観し、文化の独自性について述べる。次に、高木恭藏作「婆々宿」を踏まえて、ラウシュは津軽地方の文化的・社会的な特徴を五感で分かるような例を利用しながら詳しく分析する。長部日出雄作「津軽じょんから節」は津軽三味線の演奏家の生涯についての物語である。オタゴ大学のジョンソン協力者は津軽三味線の最近の動向について調査し、若者にまで支持される津軽三味線の魅力の理由について明らかにしている。長部日出雄作「津軽世去れ節」は、津軽民謡に多大な影響を与えた伝説的な三味線奏者であった嘉瀬の桃(黒川桃太郎1886-1931)の生涯を追った小説である。これらの小説、また多くの文献に記述される4点の津軽民謡についてウェスタホーベンはその歌詞を英訳し意味を分析する。かつて盛んに歌われていた歌詞が歌われなくなった原因ついても考察している。長部日出雄作「雪の中の声」は霊能者のお告げによって、息子が母親に殺された話である。霊能者ゴミソ、イタコは津軽に特有な民間信仰である。笹森はこの両者の特質・差違を明確に示し、さらに第3の霊能者ヨリについても指摘している。笹森はこれらについて、先行研究を踏まえて、医学・心理学の面から鋭く考察している。畠山篤は津軽の鬼伝説を23の事例から分析することによって、後の大和朝による仏教、神道の鬼概念としてではなく、地域の古層にあった自然宗教の名残として鬼説話が存在していることを明らかにした。逆境に耐え抜く津軽人の精神力の強さを象徴している物語である高木恭藏作「相野」がこの報告書を終える。文献表は、英語による過去の研究にはなかった新しい資料が豊富に収集されており、付録,補遺では人名、地名、その他の語彙が詳細に解説されている。この報告書で始めて示された語彙も少なくない。英訳に関して、「婆々宿」以外はすべて初あての翻訳である。掲載した37点のカラー写真の大半はオリジナルの資料である。