著者
出野 晃子 Ideno Akiko イデノ アキコ
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.19, pp.67-96, 2007-02

二拍形式名詞コト・モノ・トキのアクセントは、アクセントに関する情報が記載された辞典類には、いずれも尾高型アクセントとして掲載されている。しかし、実際の発話の中では頭高型アクセントが生起する場合も多い。そこで、その実態を日本語話し言葉コーパスを用いて検討した結果、以下のことが明らかになった。(1)形式名詞コト・モノ・トキは、普通名詞よりも高い確率で、頭高型アクセントが生起している。(2)頭高型アクセントが生じるのは、前接する語が平板型アクセントの場合に現れやすい条件変異である。しかし、トキは特に頭高型アクセントが生起する割合が非常に多く、アクセント変化が生じ、ゆれているという可能性もある。(3)トキのみにアクセント変化が起こった要因の一つには、トキの最終モーラキが無声破裂音の狭母音を含むため、母音の無声化が生じやすい環境だからである。また、トキは、コト・モノと比べると、句末付近よりも句頭付近に出現することが多いという特徴も影響していると考えられる。(4)頭高型アクセントの生起の言語外的要因を検討した結果、個人差が大きいことが明らかになった。頭高型アクセントが生起する確率は、講演することに慣れていない話者の方が多い。また、原稿を見ずに自発的に話す講演の場合に多く、さらに、リラックスして話しているように聞こえる講演の場合にも多い。