著者
渋谷 勝己 Shibuya Katsumi シブヤ カツミ
出版者
大阪大学文学部日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.12, pp.33-47, 2000-03

本稿は、従来の、文法を対象とした方言地理学の問題点を整理し、検討を加えることによって、以下のことを指摘するものである。(a)これまでの方言(地理学的な)研究には、文法を対象とするとしながらも、形式面にたいする配慮しかなされていない場合が多い。(b)またこれまでは、方言研究者、共通語文法研究者のいずれもが方言文法体系の記述を避けてきた。(c)したがって方言文法研究者に課された作業には、次のようなものがあることになる。(c-1)各々の方言の文法記述を個別的に進めること(c-2)方言間比較対照を行うための分析枠を設定すること(c-3)その枠を構成する意味項目ごとに各地方言の形式を地図上にプロットし、重ね合わせ法によって方言の動態を見出すこと このうち(c-1)が、もっとも急がれる課題である。
著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.32, pp.25-35, 2020-02

福沢諭吉編訳『増訂華英通語』(1860(万延1)年)の語彙集にカレーの項目が含まれ、curry の発音が「コルリ」と記されているという事実が多くの人の短絡的判断を招き、福沢が「カレー」の語を日本に初めて伝えたとする説が─さらには、福沢がカレーを日本に伝えたとか、カレーの調理法を伝えたといった話まで─広く流布している。しかし、『増訂華英通語』の理解を前提として言えば、それらの説はすべて誤っている。ここでは、『増訂華英通語』の「コルリ」の本性を明らかにし─その過程で、同書にカレーが「加兀」と書かれているという話の誤りも明らかになる─、併せて関連するいくつかの問題に考察を加える。