著者
エルヴイン・ニーデラ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.481-492, 1983

哲学, 心理学, 社会学, 特に言語学の分野では, 多領域に亘る様々な理論を背景に言葉と思考との関連性が論じられているが, 現在なお意見の一致をみるに至っていない.これは, 言葉と思考の本義が問われる時, 常に生じる問題であり, 例えば,言葉を意志疎通の手段と定義するならば, 動物ですら言葉を有すると言えるであろう. この場合, 我々の言葉の特に人間的な面を動物の伝達方法と判別するのは困難となる. また, 心理学者, O.Setzの説のように, "考えること" を "Know How" と定義するならば, 猿も "考える" ことになる. 猿は手の届かぬ所にあるバナナを棒を利用して獲得するからである. 人間個有の思考能力を勘案する時, 人間の思考を単に動物的能力の上昇したものにすぎぬと解するのは, 適切とはみなされえないだろう. この小論では,特に, 人間の言語獲得能力とその再生的, 生産的思考性の考察を基に, 言葉と思考の関連性が論述される.