著者
真喜屋 清 塚本 増久 堀尾 政博 黒田 嘉紀
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.203-209, 1988
被引用文献数
1 7

福岡県遠賀郡岡垣町に在住の男性(55才)が, 鼻内異物感を伴う鼻出血と著しい鼻汁の分泌に悩まされた後, 昭和62年7月に右側鼻内から1匹のヒル(蛭)を取り出した. 病院受診時には鼻内所見で鼻中隔弯曲が見られた他は, 左右鼻腔内に潰瘍・糜爛や出血がなく, 耳内・口腔内にも異常は認められなかった. ホルマリン固定された虫体は, 黒褐色で体表には特定の模様がなく, 体長3.5cm, 最大体幅が1.2cmであった. また, 1)耳状突起がない, 2)5対の眼点は第3と第4眼点が1環節によって隔てられる, 3)額板には歯が認められない, などの特徴によって, ハナビル<i>Dinobdella ferox</i>と同定された. このヒルは東南アジアに広く分布し, わが国でも人体寄生が知られているが, 九州では南九州からだけである. この患者は九州北部の温泉地で渓流水から感染したものと推察されるので, 温泉・秘湯ブームなどで渓谷にわけ入る風潮の盛んな昨今, 注意を払う必要がある.
著者
永田頌史
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.161-171, 1993
被引用文献数
7 1

心理・社会的ストレスによって免疫系が影響を受けることは, 一般に知られているが, 近年の神経科学, 免疫学の進歩により, その機序が詳細に解明されつつあり, 脳と免疫系が共通の情報伝達機構を持っていることが明らかになってきた. 心理・社会的ストレスによって細菌やウイルスに対する感染抵抗性が低下することや生活変化に伴うストレス, 適切でない対処行動や感情の障害された状態によって, 好中球の貪食能, リンパ球反応性, NK活性が抑制されること, またこれらが発癌にも関与することを示唆する成績について紹介した. 脳と免疫系の相互作用について, 視床下部-脳下垂体-副腎系のほかに, 自律神経系を介した免疫系への制御系の存在, 免疫・アレルギー反応の外部刺激による条件づけ, サイトカインの中枢作用, 免疫細胞からの神経ペプチド類の産生などについて, 著者らの成績も含めて解説した.
著者
馬田 敏幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-33, 2017
被引用文献数
2

<p>将来の新エネルギーを創出すると期待されている核融合技術には,燃料となるトリチウムが大量に使用され,放射線作業従事者のトリチウムによる被曝が懸念される.また福島第一原子力発電所の廃炉作業の工程では,発生しているトリチウム汚染水対策による,作業従事者の健康問題が懸念されている.トリチウム被曝の形態は,低線量・低線量率の内部被曝が想定されるが,経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたトリチウム水は,全身均一に分布することから影響は小さくないと考えられる.さらに有機結合型トリチウムは生体構成分子として体内に蓄積され,長期被曝を生じるので,トリチウムの化学形の考慮は重要となる.トリチウムの生体影響を検討するために,生物学的効果をX線や <i>&gamma;</i>線と比較する必要があり,トリチウムの生物学的効果比(RBE)の研究が多くされてきた.本総説では,確率的影響に分類される放射線発がんや,発がんの原因となる突然変異など生物効果を指標にして得られたRBEについて紹介する.加えて,近年開発されてきた,低線量・低線量率被曝の生物影響を検出可能な遺伝子改変マウスを使った動物実験系の原理と,トリチウム実験の概要についても紹介する.</p>
著者
堀江 正知
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.1-26, 2013
被引用文献数
2

日本には,労働者数50人以上の事業場に産業医を選任する法令上の義務があり,2010年の選任率は87.0%とされる.1938年に旧工場法の省令が「工場医」を規定し,1947年に労働基準法の省令が「医師である衛生管理者」を規定し,1972年に労働安全衛生法が「産業医」を規定し,1996年に産業医学の研修受講が選任要件となった.労働衛生の歴史上,当初,工場労働者の傷病の治療と感染症の予防で医師が必要とされた.その後,健康診断等の健康管理及び作業環境測定等の衛生管理の手法が開発され,局所排気装置や労働衛生保護具等の対策が普及し,医師以外の労働衛生の専門職が制度化され,産業医と事業者との関係が法令で明確に規定された.現在,日本医師会と産業医科大学は産業医を養成し,日本産業衛生学会は専門医制度を確立した.産業医の専門性向上,労働衛生の専門職の活用,小規模事業場の産業保健活動,リスクアセスメントの推進,複雑化した法令の体系化等が課題である.
著者
松田 晋哉 村田 洋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.151-164, 1996
被引用文献数
1 1

わが国の民間病院の経営状況を知る目的で, 社会福祉・医療事業団の資料をもとに, 同事業団が貸付を行った民間病院の財務分析を行った. その結果, わが国の民間病院の経営状況は, 成長性, 効率性は低いレベルでの定常状態にあるが, 経営状況は比較的安定していると考えられた. しかし、費用の効果性が伸び悩むとともに, 収益性が悪化しており, 特に資本の回転率が低い, すなわち投下資本に無駄が生じてきていることが明らかとなった. 損益分岐点分析でもこの点は明らかであり, 近年損益分岐点比率は上昇(すなわち, 経営安全率は減少)しており, 何らかの短期的変動要因で医業収益が5%低下すると平均値以下の民間病院は赤字転落するという厳しい経営状況の実態が明らかとなった.
著者
牧 孝 中野 正博 隼田 和明 森田 浩介
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.19-51, 1980

バナジウム(<sup>51</sup>V)による陽子の弾性・非弾性散乱の実験を, 陽子エネルギー5.700-5.962 MeVで行った. 励起関数については, 測定角度90°, 105°, 118°, 135°, 150°, 163°の6点を入射陽子エネルギーのステップ2 keVで測り, <sup>51</sup>Vの基底状態から第4励起状態までの陽子グループの励起関数を得た. 角度分布は50 keVステップで測定した. 得られた散乱断面積は陽子の入射エネルギーによって大きなゆらぎ現象を現わしている. 解析は統計理論に基づいて行った. エネルギー相関, 角度相関, チャンネル間相関, 確率分布, 分散の解析から平均準位巾 <i>&Gamma;</i> は2.0 keV, 複合核の寿命 <i>&tau;</i> は3.3×10<sup>-19</sup>秒, 核半径係数r<sub>o</sub>は1.1.8×10<sup>-13</sup>cm, 有効チャンネル数N<sub>eff</sub>は5-25, が導けた. 核反応機構は統計理論, Hauser-Feshbachの複合核理論や光学模型による計算, および角度分布の解析から, 断面積のうち直接反応過程からの寄与の割合が(p, p<sub>o</sub>)反応では90-95%, (p, p<sub>1</sub>), (p, p<sub>2</sub>)反応では60-80%, (p, p<sub>3</sub>), (p, p<sub>4</sub>) 反応では<u>~</u>0%であることが分った.
著者
楠本 朗 梶木 繁之 阿南 伴美 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.385-395, 2021

<p>This study examines how psychological distress (measured by the K10 screening test) and presenteeism (measured by the quality and quantity method) change in the six months after returning to work from having taken a sick leave because of a mental illness. In a manufacturing company with approximately 2,600 employees, 23 employees returned to work after experiencing mental illness between April 2015 and March 2016, and all 23 agreed to participate in the study. We analyzed 18 cases for which we had sufficient data. Two of the employees were absent from work in the sixth month. We performed multilevel analysis for K10 and presenteeism over time on the 16 without recurrence. A significant decreasing trend was observed for both K10 and presenteeism. Eleven of the 16 employees were consistently below the K10 cutoff value of 10 for six months, and 5 had zero presenteeism in the sixth month, whereas 6 employees showed improvement in presenteeism that stopped midway through the study. An occupational physician judged that the employees could work normally with presenteeism of zero. After returning to work, it is important to monitor not only psychiatric symptoms but also presenteeism.</p>
著者
リザード ソーダ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.91-95, 1994
被引用文献数
3

カーボンブラックは補強剤や色素として広く用いられている. しばしば, 「すす」と同じものと誤解されるが, 物理化学的性質は煤煙の「すす」と, カーボンブラックは全く異なっている. ポーランドにおける疫学的調査では, カーボンブラックの曝露を受けている作業者の呼吸器系の障害が起こる可能性を示唆する結果が得られているが, さらに調査が進められている. 西欧諸国での調査ではそのような可能性を支持する結果は得られていないが, 結論が出るまでにあと6年間の調査が必要である. 一方, 米国の調査では, カーボンブラックの作業現場での曝露で, 循環器系, 呼吸器系の疾患, あるいは悪性腫瘍のリスクは増加しないと報告されている. カーボンブラックのヒトの健康に対する影響の評価はさらに継続する必要がある.
著者
矢田 浩紀 安部 博史 大森 久光 石田 康 加藤 貴彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.293-303, 2009
被引用文献数
1 8

精神科の看護者のストレス要因を明らかにし, 精神科急性期病棟と精神療養病棟の看護者のストレスの質と量の違いを比較することを目的とした. 調査には, 職業性ストレス簡易調査票と精神科看護師の特有のストレス項目およびストレスに暴露される時間量に関する質問票について精神科の看護師・准看護師36名(A病院精神科急性期病棟11名とB病院精神科療養病棟25名)から回答を得た. 各下位尺度で因子分析を行い, 因子得点と項目得点にて2要因分散分析を行った結果, 職業性ストレス簡易調査票における「仕事のストレス要因」の下位尺度「雰囲気」の因子得点と「精神科におけるストレス要因」における全因子「看護における知識と技術」「実際のケア」「暴力への恐れ」「仕事の方向性」の因子得点は, 急性期病棟より療養病棟の看護者の方が有意に高くストレスが高かった.
著者
中谷 淳子 池田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.73-78, 2011

2010年8月産業医科大学産業保健学部は, 東京都内において「第3回国際産業看護・第2回アジア産業看護ジョイント学術集会」の特別企画として, シンポジウム-仕事とポジティブ・メンタルヘルス-を開催した. 基調講演として, オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ教授が「ワーク・エンゲイジメント」の概念について説明された. その理論は, 仕事に対する活力・熱意・没頭の3要素が高い労働者は, 心身ともに健康状態が良好で, 組織の活性化や生産性向上にも貢献するというものである. 続いて, 心理学者, 産業医, 企業の人事担当者および内閣府審議官によるパネルディスカッションを行った. その結果, 深刻なうつ病の予防対策は職場におけるメンタルヘルス対策において必要であるが, それだけでは不十分であり, 同時に健康な労働者のさらなる健康を目指す対策も取り入れて, 職場全体の健康を増進して行くことが, 今後の課題であるという共通認識に至った.
著者
ナ スクヒ チョン ミンクン ソン ヨンウン
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-10, 2011

立位姿勢(直立ないし歩行)での長時間の作業は, 就業時や日常の活動においても普通にあり, 腰痛や下肢障害の危険因子の一つである. 本研究では異なる4種類の床面状態(3種類のフロアマットとフロアマットなし)で歩行時の床反力の比較を行った. 床反力は靴内装着型および固定型足底圧計測システムの両者によって測定した. 6名の男性被験者(平均体重=72.4±7.5kg)は4種類の状態の床を裸足で歩行し, 2種の測定システムで足底圧を同時に記録した. 平均床反力, 2つの極大値(踵接地および足趾離床), および靴内装着型足底圧計測システムにより測定された最大床反力は床表面状態により有意に異なる測定値を示し(<i>P</i><0.05), 床材がない場合が828.9±114.2Nで最大の床反力であった. しかしながら, 固定型足底圧計測システムによる測定では有意な差は得られなかった. フロアマットがない場合と比較すると3種のフロアマットすべてが床反力を減少させたが平均床反力および最大床反力(最大値と2つの極大値)はマットの厚さと材質の違いにより違いがあった. 以上のことから, バイオメカニカルな特性に従った適切なフロアマットの選択を行うことが作業時での疲労と不快感の減少に有効であると考えられる.
著者
アミット リトー ソン ヨンウン
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.19-32, 2018
被引用文献数
3

体表面積 (BSA) は,人体曝露研究の実施および小児科の臨床において重要なパラメータである.この論文の目的は,7つのBSA算出式を比較し,これらの算出式のどれが韓国の子供に適応性があるかを調べることであった.体表面積は,国民健康栄養調査 (2012-2014) の1歳から18歳までの韓国の子供 (n=4899) の身長と体重のデータを用いて,年齢,年齢群,BMI群別に算出した.このために,Banerjee and Bhattacharya (1961),Fujimoto and Watanabe (1969),US EPA (1985),Gehan and George (1970),Boyd (1935),Haycock (1978) およびMosteller (1987) の算出式が用いられた.7つの算出式の算出値の平均値を計算し,比較のためのノルム値として使用した.すべての推定は,全体の平均BSA値と強い正の相関を示した.Gehan and George (1970),US EPA (1985),Boyd (1935) 式の計算では,過大評価が観察された.Banerjee and Bhattacharya (1961年) とFujimoto and Watanabe (1969年) の値は過小評価を示し,すべての年齢層で0.027 m<sup>2</sup>の最大誤差を示した.Mosteller (1987) およびHaycock (1978) のBSA推定値は,全体平均BSA値に近いことが判明した (最小誤差0.004 m<sup>2</sup>).人体曝露研究の実施および韓国の小児科の臨床においてはMosteller (1987) の算出式を使用することが推奨される.1歳から2歳の子供にはHaycock式も適している.
著者
矢吹 慶 原武 譲二 久岡 正典
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.387-395, 2019
被引用文献数
2

炭酸ランタンは,末期腎不全(ESRD)の透析患者に発症する高リン血症治療薬として広く使用されている.炭酸ランタンは,消化管内で食物中のリン酸と難溶性化合物を形成するため,消化管粘膜からはほとんど吸収されないとされていた.しかし,近年炭酸ランタン服用患者の胃十二指腸粘膜にランタンが沈着することが報告されている.ランタン沈着は,内視鏡的に様々な大きさや形の白色病変として認識できる.病理学的には,胃十二指腸粘膜内に異物肉芽腫と貪食された沈着物を多数認め,一部の所属リンパ節にも沈着が及ぶ.また,炭酸ランタンの内服量や内服期間が長いほど,胃十二指腸粘膜内のランタン沈着量は多いとされている.詳細なランタン沈着機序は不明な点があるが,胃内のpH,腸上皮化生などの様々な要因が関与すると推察される.本総説では,炭酸ランタン内服患者における胃十二指腸粘膜内のランタン蓄積症について臨床病理学的所見に焦点をあてて解説する.
著者
奥田 真也 松岡 成明 毛利 元彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.247-261, 1988
被引用文献数
7

大陸棚海域の開発に必要な水深300mの海中作業技術の確立と安全潜水技術の確立を目的として行われた横須賀の海洋科学技術センターの潜水シミュレーション実験に過去5年間参加した. 我々は二次元脳電図法を用いて, 1)高圧神経症候群(HPNS)に特有な脳波変化があるか, 2)脳波の変化と潜水時のHe-O<SUB>2</SUB>環境下での加圧・減圧速度との関係, 3)脳波の変化と特徴ある神経症状との相関の有無を検討した. 対象として,300m飽和潜水には17名(加圧速度25m/hr), 180mに6名(12m/min), 130mに6名(12m/min), 60mに13名(12m/min)の健康な飽和潜水経験者を採用した. 加圧時の環境制御は, 酸素分圧0.79bar, ヘリウム分圧29.91bar. 特徴ある脳波所見とし, 前頭正中部にθ波, およびdiffuse α波を, ときに痙撃波を認めた. 臨床的には全例にHPNSを認め, 上記脳波出現時に, 笑い発作, 多幸感が特徴的であった. これは高圧下のヘリウム麻酔効果による影響と推察されるが, ダイバーにより個人差がみられた. 従ってダイバーの選択並びに生理学的反応を知るには脳波学的検査は重要なモニターとなりうる.
著者
明星 敏彦 李 秉雨 橋場 昌義 神原 辰徳 大藪 貴子 大神 明 森本 泰夫 西 賢一郎 角谷 力 山本 誠 轟木 基 水口 要平
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.163-171, 2011
被引用文献数
1

ナノマテリアルを取り扱う作業では, 防じんマスクを着用する必要がある. しかし, 防じんマスクで気中に浮遊しているナノ粒子(1〜100nm)を確かに捕集除去できるか, 取り扱っている衛生管理者や作業者は不安に思っている. 本研究では, 15〜220nmの粒径範囲の二酸化チタンナノ粒子を試験粒子に用いるフィルタ捕集効率測定システムを作成した. DS1防じんマスク2種類とDS2防じんマスク4種類をこのシステムに設置して, 粒子捕集効率を計測した. ここで試験した防じんマスクは日本の国家検定に合格したものである. 試験した中では, 検定合格に相応する捕集効率(DS1では80%, DS2では95%)以下の性能を示す防じんマスクはなかった.
著者
上野 晋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.91-96, 2013

わが国でもかつては金属や有機溶剤による産業中毒の事例が多発していた時代があり,このことが機縁の一つとなって1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が制定された.現在,化学物質はその危険有害性の程度に応じていくつかの規則によって管理されているが,その対象物質は産業現場で使用される化学物質の一部に過ぎず,毒性が明らかでないまま使用されている化学物質も少なくないのが現状である.労働安全衛生法が改正され,全業種の事業者に化学物質に係るリスクアセスメントが求められるようになっている中で,産業医は毒性が明らかでない化学物質を含めてこれからどのように対応していくべきであろうか.本稿では化学物質の中でも金属と有機溶剤の毒性学に焦点を当てて考察する.
著者
アシット ケイ マックヘルジー ビーラッパ ラビチャンドラン サナット ケイ バッタチャリア サンジット ケイ ロイ サビール アーメド スリダー サクール ハビブラ エヌ サイエド
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.253-268, 2008

この研究はインドにおける主要な予焼タイプのアルミニウム製錬工場における労働・環境評価と労働者への曝露についての報告である. 主要な精錬工場現場, すなわち, 溶解炉室, 炭素室, 突合せ場, ロッド精造場, 電解浴準備室, 溶湯室の内部および附近での健康障害のレベルが測定された. 一般的な麈埃は高度から非常に高度であった. 3つのもっとも麈埃の多い領域での空気中の吸入麈埃の平均レベル(PM<sub>10</sub>)は, 炭素室では24.07mg/m&sup3;, 電解浴準備室では27.57mg/m&sup3;, ロッド製造場では4.44mg/m&sup3;であった. 粒子の40-60%は5μm以下の大きさであった。溶解炉室の空気では, 0.5-2.82%の固型弗化物が0.4-4.7μmの大きさの分画に存在した. 当然のこととして, 麈埃全体の曝露は, これらの過程で非常に高かった. NO<sub>x</sub>, SO<sub>2</sub>, 弗化物(ガス状と固型)のバックグランドのレベルは, インドで定められた基準値以下であった. ガス状と固型の弗化物(それぞれ3.85, 6.53mg/m&sup3;)の高度の曝露がロッド精造場の労働者で見られた. 多環芳香族炭化水素(PHAs)のレベルは炭素室で高いと思われた. 熱ストレスの測定は冬季に行われたので基準値以下であった.
著者
西風 脩
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.183-208, 1993
被引用文献数
14 1

H. Selyeはストレスをthe rate of wear and tearとした. 私たちは, 生物は無生物と異なり, エネルギー変換のもと, 摩耗(wear and tear)と修復(repair and recovery)の動的平衡においてその生を営むものとし, 生体適応能の把握は少なかれ摩耗と修復の両面よりもってすべきものとする考えのもとに, 17-OHCSを摩耗関連因子と捉え, 修復関連因子を他にもとめた. そのひとつが17-KS-Sである. 17-KS-S, 17-OHCS両者の同時測定は, ストレッサーによりもたらされた生体の歪み(適応の歪み)の把握を可能にし, 個々人の疾患の存在, 疾患に対する感受性に関る情報提供の客観的手法として有用であり, 特に今日の産業医学領域において, 医療関係者, 健康官理者に対し, 臨床検査に異常を認め得ない心理社会的ストレス下の生体におけるストレス原因の究明とその対応を提起する可能性が大きく, 本領域における本方法の適用が望まれる.
著者
スギアンティ ゲック ラカ ウィラワン アイ マディ アディ ウタミ ニ ワヤン アリャ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.353-362, 2019
被引用文献数
1

観光地プンリプランの伝統的な飲料であるロロチャムチャムはチャムチャムの葉(<i>Spondias pinnata </i>(L.f.) Kurz)を含み,バリ島各地に広く流通している.この研究は,ロロチャムチャムの微生物学的特性と製造工程の衛生との関連を調べることを目的としている.バリのプンリプランで,ロロチャムチャムのすべての家内生産者と取扱業者,4つの貯水池,そして3ヶ所の水源サンプルを対象に横断的研究を行った.衛生に関するデータは,観察とインタビューにより得た.サンプルの微生物学的特性は生菌数,大腸菌群の最確数(MPN),そして大腸菌(<i>E. coli</i>)汚染について調べた.強毒遺伝子を同定するためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を行った.水源は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)で汚染され,さらに貯水池の約25%とロロチャムチャムのサンプルの43.3%が大腸菌に汚染されていた.このことは,酸性条件下(平均pH 2.8)での大腸菌の生存を示している.30の家内生産者のうち,76.7%の衛生施設は安全基準を満たしていたが,器具の衛生管理(60.0%),取扱業者の衛生(50.0%),および生産現場の衛生管理(43.3%)は非常に低かった.取扱業者の不十分な衛生はロロチャムチャムの微生物学的特性と関連しており,調整オッズ比(AOR)は15.02(95%CI: 1.31-171.5,<i>P</i> = 0.029)だった.継続的な監視は,製造工程の衛生および事業従事者の衛生の改善に不可欠である.微生物学的研究は,酸性環境での生存能力を含む大腸菌の性質を理解する上で必要である.
著者
遠山 篤史 村上 緑 吉野 潔
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.317-325, 2020
被引用文献数
5

<p>Cervical cancer commonly metastasizes first to the pelvic lymph nodes and then subsequently spreads to distant organs, making lymph node metastases the most significant prognostic factor in cervical cancer, and the strategy for its treatment directly influences prognosis. This review focuses on the treatment strategies for cases of cervical cancer with bulky pelvic lymph nodes. Concurrent chemoradiotherapy is the standard treatment modality for patients with pelvic lymph node metastases, but it is inadequate for bulky pelvic lymph nodes. Accordingly, surgical resection of the bulky lymph nodes has been attempted, and its therapeutic significance has been reported. If the bulky lymph nodes are unresectable, definitive concurrent chemoradiotherapy is performed. If it yields an inadequate degree of lymph node shrinkage, boosted radiation should be considered. The addition of chemotherapy after concurrent chemoradiotherapy has also been reported to be effective in patients with lymph node metastases and is currently being evaluated in clinical trials.</p>