著者
馬田 敏幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-33, 2017-03-01 (Released:2017-03-23)
参考文献数
43
被引用文献数
1

将来の新エネルギーを創出すると期待されている核融合技術には,燃料となるトリチウムが大量に使用され,放射線作業従事者のトリチウムによる被曝が懸念される.また福島第一原子力発電所の廃炉作業の工程では,発生しているトリチウム汚染水対策による,作業従事者の健康問題が懸念されている.トリチウム被曝の形態は,低線量・低線量率の内部被曝が想定されるが,経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたトリチウム水は,全身均一に分布することから影響は小さくないと考えられる.さらに有機結合型トリチウムは生体構成分子として体内に蓄積され,長期被曝を生じるので,トリチウムの化学形の考慮は重要となる.トリチウムの生体影響を検討するために,生物学的効果をX線や γ線と比較する必要があり,トリチウムの生物学的効果比(RBE)の研究が多くされてきた.本総説では,確率的影響に分類される放射線発がんや,発がんの原因となる突然変異など生物効果を指標にして得られたRBEについて紹介する.加えて,近年開発されてきた,低線量・低線量率被曝の生物影響を検出可能な遺伝子改変マウスを使った動物実験系の原理と,トリチウム実験の概要についても紹介する.
著者
岡﨑 龍史 太神 和廣 横尾 誠 香﨑 正宙
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.277-290, 2017-12-01 (Released:2017-12-16)
参考文献数
20

2011年および2013年に行った福島第一原子力発電所事故の健康影響へのアンケート調査では健康影響への不安は,患児の保護者と放射線知識の高い医師や医学生とでは,患児の保護者の方がより強いことが確かめられた.福島県民健康調査事業で甲状腺検査によって,甲状腺がんが190名報告され,放射線影響の可能性に対する福島県民の不安は残っている.今回,事故後6年を経過後の放射線教育の受講状況や不安に対する調査を行うとともに,福島県内の患児の保護者に対して,放射線影響と福島県民健康調査事業での甲状腺検査についてアンケート調査を行った.全質問20項目の無記名自記式アンケートを福島県小児科医会各医療機関へ郵送し,受診した小児・青少年の保護者,および医療機関関係者から回答を得た.505部回収され,回収率は26.7%であった.患児の保護者では,「放射線教育を受けたことがない」が30%,「人体の影響についての教育を詳しく受けていない」が67%であった.患児の保護者では,「甲状腺がん」,「子どもへの健康影響」,「将来生まれてくる子や孫への遺伝的な影響」の項目に対し,医療従事者に比べ不安が高い傾向にあった.現状での甲状腺がんの発症は,原発事故による放射線影響と考え,甲状腺検査の継続を望む者が多いことが判明した.
著者
大津山 彰
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.175-183, 2016-06-01 (Released:2016-06-14)
参考文献数
27

2008年HLEG(High Level Expert Group on European Low Dose Risk Research)は低線量影響研究の意義とその重要性を提唱し,発がんも含めて低線量放射線影響研究は国際的関心事となってきている[1,2].我々は長年動物実験を行っているが,放射線発がん実験は動物種の選択や,放射線の種類,量,照射方法など組合せが複雑で,解析もマクロからミクロ,分子生物学分野におよび,線量と効果の関係の目標を定めにくい領域である.我々の実験系では特異的自家発生がんが少ないマウスを選択し,目的の誘発がんとしてマウスで自家発生が希有な皮膚がんを選択した.また被ばくによる他臓器への影響を避け,かつ皮膚限局照射が可能なβ線を用いた.これにより照射部位の皮膚のみをがんの発生部位とし,他臓器の放射線影響を最小限にして長期反復被ばくを可能にし,放射線誘発腫瘍が生じる実験系を作った.照射は週3回反復照射で1回当りの線量を0.5~11.8 Gyまで段階的に線量を設定した.11.8~2.5 Gy線量域ではどの線量でも発がん時期と発がん率に変化はなかったが,この線量域から1.5~1 Gy線量域に1 回当りの線量を下げると発がん率に変化はみられず発がん時期の遅延が生じた.1回当りの線量0.5 Gyではマウスの生涯を通じ照射を続けてもがんは生じなかった.この結果はマウスでは,生涯低線量放射線被ばくを受け続けても生存中にがんが発生しない線量,つまりしきい値様線量が存在することを示している.
著者
堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.1-26, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

日本には,労働者数50人以上の事業場に産業医を選任する法令上の義務があり,2010年の選任率は87.0%とされる.1938年に旧工場法の省令が「工場医」を規定し,1947年に労働基準法の省令が「医師である衛生管理者」を規定し,1972年に労働安全衛生法が「産業医」を規定し,1996年に産業医学の研修受講が選任要件となった.労働衛生の歴史上,当初,工場労働者の傷病の治療と感染症の予防で医師が必要とされた.その後,健康診断等の健康管理及び作業環境測定等の衛生管理の手法が開発され,局所排気装置や労働衛生保護具等の対策が普及し,医師以外の労働衛生の専門職が制度化され,産業医と事業者との関係が法令で明確に規定された.現在,日本医師会と産業医科大学は産業医を養成し,日本産業衛生学会は専門医制度を確立した.産業医の専門性向上,労働衛生の専門職の活用,小規模事業場の産業保健活動,リスクアセスメントの推進,複雑化した法令の体系化等が課題である.
著者
久保 達彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.273-276, 2014-12-01 (Released:2014-12-13)
参考文献数
8
被引用文献数
3 5

厚生労働省が実施する労働安全衛生特別調査(労働者健康状況調査)と総務省が実施する労働力調査を基に,我が国の深夜交替制勤務者数の推計を行った.検討の結果,我が国において雇用者に占める深夜業従事者割合は平成9年13.3%,平成14年17.8%,平成19年17.9%,平成24年21.8%と一貫して増加しており,最新調査年である平成24年においては1,200万人の労働者が深夜業に従事していると推計された.交替制勤務従事者と,深夜業を含む交替制勤務者の雇用者に占める割合も一貫して増加傾向にあった.
著者
堀尾 政博
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.299-314, 1981-09-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

硝酸塩中毒は, 反芻動物では国の内外を問わず多発しているが, これは大量の糞尿を施肥した土地に生育した作物を摂食した際, その中に多量の硝酸塩が含まれていたことに起因することが報告されている.すなわち, 反芻動物では摂取された硝酸塩は, 第1胃内の細菌によって還元される過程で中間代謝産物としての亜硝酸に変化する. 硝酸およびその還元物質は, 第1胃壁から速かに吸収されて血液中に入るが, 亜硝酸はさらに赤血球内でヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビン(MHb)を形成する. これは酸素運搬能カを持たないため組織は酸素欠乏におちいり, 動物は死に至る. この中毒は一般にヒトでは発生しないと思われているが, 近年発ガン物質N-ニトロソアミンの先駆体となっていると言われている硝酸塩等について, ヒトでも再考する必要のある事例が知られてきた. その意味で反芻動物は現象が強調された1つのモデルとしてみなすことができるので, 硝酸塩の代謝, MHbの消長およびそれらが生体に与える影響などについてここに総説としてまとめて紹介した.
著者
藤野 昭宏
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.273-291, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
42

医学概論とは如何なる学問なのかについて,1.医学概論への誤解,2.歴史的変遷,3.目指す医師像,4.教育の現在,5.根源的思想,そして6.医のプロフェッショナリズムとの関連,の6つの観点から考察した.医学概論とは,医学とは何かをつねに根源的に問い直す,医学の本質を見極める学問のことであり,生命倫理学,臨床倫理学および医療人類学の3本の柱とその土台である人間学から成り立つ.人間学としての医学概論を学ぶ意義は,霊性的自覚によって病いの語りへ共感し,医学を通して根源的いのちを実感する癒し癒される人間関係を体験的かつ思索的に理解し,自己自身の人間性と霊性を深めることにある.そして,その根源的思想にあるのが「矛盾的相即」の考え方である.この矛盾的相即の思想を,生涯にわたって医学を通して体験的に理解すること,これが医学概論の究極の使命である.
著者
藤野 善久 久保 達彦 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.177-183, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
32

近年,健康格差が社会的課題として取り上げられている.2012年に発表された第2次健康日本21の素案の中で,健康格差への取り組みが優先的課題として提示された.このような背景を踏まえて,健康格差の是正に向けた産業保健のあり方について,公衆衛生および社会疫学的視点から考察を行った.はじめに,職域における健康格差について,レビューを行い,また,社会疫学やライフコースアプローチで得られた知見にもとづき,職域における健康格差の成立機序についてコンセプトモデルを提示した.さらに,産業保健において健康格差に取り組むための具体的ツールとして,健康影響評価の活用について解説する.
著者
本田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.191-199, 2018-06-01 (Released:2018-06-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1

産褥期は育児のために母親の睡眠が分断され,睡眠時間の減少や疲労の訴えがしばしばみられる[1].特に,産褥早期の育児において授乳の占める割合は大きく,睡眠への影響因子の一つであると考え,本研究では褥婦の授乳方法・授乳姿勢と睡眠感の関連について明らかにすることを目的とした.入院中(経腟分娩では初産婦6日目,経産婦5日目,帝王切開分娩では8日目)と産後1ヶ月の2回,授乳や睡眠に関する質問紙と,睡眠感の評価にOSA睡眠調査票MA版を用いて調査を実施した.その結果,分娩歴や分娩方法の違いによる睡眠感に有意差は見られなかったが,入院中の授乳方法において,夜間は直接授乳群(n = 46)で疲労回復や睡眠時間の項目の得点が有意に高く(P < 0.05),授乳姿勢においては添え乳群(n = 14)で疲労回復に関連する項目の得点が高かった(P < 0.05).さらに産後1ヶ月の授乳方法でも,昼(P < 0.01)・夜(P < 0.05)ともに直接授乳を行う褥婦の睡眠感が良好であることが分かったことから,産褥期の睡眠感を高めるには,直接授乳と添え乳が効果的であった.また,産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられた.産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられたのは,母親が育児に慣れたことや,授乳パターンが把握できるようになったことなどにより,スムーズに授乳できるようになったことが影響していると考えられる.
著者
松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.67-72, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

フランスは日本と同様,産業医の資格と義務的配置を法律で定めている.フランスの産業医は専門医の一つであり,卒後4年間の研修の後,企業の産業保健サービス部門あるいは中小企業を対象とした企業間産業保健サービスで勤務する.日本と異なり,フランスでは事業所規模に関わらずすべての労働者が産業医による健康管理を受けることができる.フランスの産業医の職務は予防的な活動が中心であり,緊急時を除いて臨床行為を行うことはできない.その主な職務は健康診断の実施とその結果に基づく適正配置,そして職業病や労働災害防止のための職場環境改善である.かつては職務が予防的業務に限定されていたため十分な研修医が集まらない現状があったが,職域における健康管理の重要性が社会的に認知されるようになり,その専門医養成数及び志望者が増加している.また,職務内容もメンタルヘルスや生活習慣病を予防するための活動の重要性が大きくなっている.このように両国の産業保健の状況には多くの共通点があり,したがって今後比較制度研究が本学関係者を中心に行われることが期待される.
著者
馬田 敏幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-33, 2017
被引用文献数
1

<p>将来の新エネルギーを創出すると期待されている核融合技術には,燃料となるトリチウムが大量に使用され,放射線作業従事者のトリチウムによる被曝が懸念される.また福島第一原子力発電所の廃炉作業の工程では,発生しているトリチウム汚染水対策による,作業従事者の健康問題が懸念されている.トリチウム被曝の形態は,低線量・低線量率の内部被曝が想定されるが,経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたトリチウム水は,全身均一に分布することから影響は小さくないと考えられる.さらに有機結合型トリチウムは生体構成分子として体内に蓄積され,長期被曝を生じるので,トリチウムの化学形の考慮は重要となる.トリチウムの生体影響を検討するために,生物学的効果をX線や <i>&gamma;</i>線と比較する必要があり,トリチウムの生物学的効果比(RBE)の研究が多くされてきた.本総説では,確率的影響に分類される放射線発がんや,発がんの原因となる突然変異など生物効果を指標にして得られたRBEについて紹介する.加えて,近年開発されてきた,低線量・低線量率被曝の生物影響を検出可能な遺伝子改変マウスを使った動物実験系の原理と,トリチウム実験の概要についても紹介する.</p>

3 0 0 0 OA 占いと女性

著者
種田 博之
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.351-362, 2000-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

私たちは, 自明的に占いを女性のもの一占いの需要・受要者(客)および占いの供給者(占い師)を女性とみなしがちである. しかし, 占いに関しての歴史的資料などを概観すると, 必ずしも女性だけが需要(受容)者でもなければ供給者でもないことがわかる. すなわち, 占いと女性の関係を自明視してしまうと見落とてしまう社会学的な問題群がある. そうした問題群の一つとして「占いの女性化」という問題がある. 「占いの女性化」とは, 占いの担い手一占いの供給者(占い師)と需要・受容者(客)が女性へと特化, 方向づけられていく過程である. 本稿は, 「占いは女性のもの」とする自明視を崩していくために, 「占いの女性化」という問題を浮かび上がらせることを目的とする. また, 近代以降の日本社会における女性像に関する視点を提起する.
著者
岡﨑 龍史 大津山 彰 阿部 利明 久保 達彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.91-105, 2012-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

福島第一原子力発電所(福島原発)事故後, 放射線被曝に対する意識について, 福島県内一般市民(講演時200名, 郵送1,640名), 福島県外一般市民(52名), 福島県内医師(63名), 福島県外医師(大分53名, 相模原44名, 北九州1,845名)および北九州のS医科大学医学部学生(104名)を対象にアンケート調査を行った. アンケート調査の回収率は, 福島県の一般市民は講演時86%と小児科医会を通じて郵送した50%と, 福島県外の一般市民91.3%および福島県内医師は講演時に86%回収, また福島県外の医師は, 相模原市85%および大分県は講演時に86%回収し, 北九州市はFAXにて17%回収となった. 福島原発後の放射線影響の不安度は, S医科大学医学部学生が12.2%ともっとも低く, 次に医師(福島県内30.2%, 県外26.2%)が低く, 福島県外一般市民(40.4%), 福島県内一般市民(71.6%)の順に高かった. 不安項目に関しては, S医科大学医学部学生や福島県医師は, 健康影響よりも環境汚染(食物や土壌汚染)に対し不安を持つ割合が高く, 福島県外医師や福島県内外の一般市民は健康被害および環境汚染の双方に不安を持っていた. 放射線の知識が高い人が, 現状に対する不安は少なく, 放射線知識の普及の必要性が結果として示された.
著者
真喜屋 清 塚本 増久 堀尾 政博 黒田 嘉紀
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.203-209, 1988-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
3 5

福岡県遠賀郡岡垣町に在住の男性(55才)が, 鼻内異物感を伴う鼻出血と著しい鼻汁の分泌に悩まされた後, 昭和62年7月に右側鼻内から1匹のヒル(蛭)を取り出した. 病院受診時には鼻内所見で鼻中隔弯曲が見られた他は, 左右鼻腔内に潰瘍・糜爛や出血がなく, 耳内・口腔内にも異常は認められなかった. ホルマリン固定された虫体は, 黒褐色で体表には特定の模様がなく, 体長3.5cm, 最大体幅が1.2cmであった. また, 1)耳状突起がない, 2)5対の眼点は第3と第4眼点が1環節によって隔てられる, 3)額板には歯が認められない, などの特徴によって, ハナビルDinobdella feroxと同定された. このヒルは東南アジアに広く分布し, わが国でも人体寄生が知られているが, 九州では南九州からだけである. この患者は九州北部の温泉地で渓流水から感染したものと推察されるので, 温泉・秘湯ブームなどで渓谷にわけ入る風潮の盛んな昨今, 注意を払う必要がある.
著者
木下 良正 原田 篤邦 大成 宣弘 横田 晃
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.111-117, 2004-03-01 (Released:2017-04-11)

症例は71歳女性. 2ケ月前より左眼窩部痛と軽度の複視を主訴に来院した. 左眼の外転と外下方のわずかな眼球運動障害を認めるのみで眼球結膜充血や眼球突出, 眼圧の上昇もなかった. 血管撮影にて両側内頸動脈と外頸動脈から左上眼静脈へ多くのシャント血流が認められたが, 流出路がよく発達しているため塞栓術を施行しなかった. 退院3週間後, 左眼の完全眼球運動障害が出現し再入院となった. 神経学的には左眼痛の増悪および全方向性の複視, 左眼の全外眼筋麻痺を認めたが, 眼球結膜の充血はなく眼圧の上昇もなかった. 血管撮影にてシャント量はむしろ減少し流出路の顔面静脈の造影は不良となっていた. 下錐体静脈洞経由で海綿静脈洞の塞栓術を施行し症状の改善を得た. 軽微な複視と眼痛で発症し, 結膜充血を伴わず急速に症状が悪化した特発性頸動脈海綿静脈洞瘻症例を経験したので報告した.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.201-207, 2017
被引用文献数
41

受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
著者
土肥 良秋 工藤 秀明 西野 朋子 藤本 淳
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.409-417, 2003-12-01 (Released:2017-04-11)

新生血管形成(広義の血管新生)機序は血管発生(vasculogenesis)と血管新生(angiogenesis, 狭義の血管新生)に大別される. 前者は未分化間葉細胞が既存血管周囲に索状に集積し, 血管内皮前駆細胞に分化しながら血管に編入する血管形成機序を指し, 後者は既存血管内皮細胞が増殖・遊走して血管発芽(vascular sprouts or endothelial buds)を示す血管形成機序を指す. 血管発生は胎生期の初期の新生血管形成に限られ, その後は血管新生のみが行われていると考える研究者が多かった. しかし, 近年, 成体の末梢血中に血管内皮前駆細胞が存在することから, 成体でも血管発生が行われることが証明され, 目下, 新生血管形成機序の見直しが行われている.
著者
浦本 秀隆
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.215-219, 2008-06-01 (Released:2017-04-11)

企業の安全管理において通勤方法は重要な管理要素の一つである. 当事業所は特有の立地条件のため, 従業員の大半が自動車通勤であり, 高速道路を利用している人もいる. 本研究では高速道路通勤による健康への影響を調査した. 高速道路通勤を利用する群(highway: HW)は高速道路通勤を利用しない群(non-highway: NHW)に比べ男性に多く, 年齢が若かった. NHW群は5年間の観察期間にて(body mass index: BMI), 収縮期血圧, 拡張期血圧, 総コレステロールは有意に悪化したが, HW群は収縮期血圧を除いて増悪を認めなかった. さらに中性脂肪は有意に改善した. また運動する習慣や栄養バランスへの配慮が低く, ストレス解消法も無いと答えた人が多かったにもかかわらず, ストレスを感じない人が多く, 高速道路運転によるストレス解消が推測された. 高速道路通勤はむしろ健康に好影響を与える可能性がある.
著者
郡山 一明 保利 一 山田 紀子 井上 尚英 河野 慶三
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.25-28, 1991-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1 1

メタノール - トルエン系と酢酸エチル-トルエン系の混合有機溶剤の気液平衡関係について, それぞれの溶剤の気相濃度の実測値と, 溶液を理想溶液と仮定した場合の理論値とを比較検討した. 酢酸エチル-トルエン系の混合溶剤では, 酢酸エチルの気相濃度は実測値と理論値が, 比較的良く一致していた. メタノール-トルエン系の混合溶液では, メタノールの気相濃度は, 特にメタノールの含有率が5%以下の領域において, 理論値よりも著しく高濃度になることが分かった. 混合有機溶剤曝露の健康影響評価については, 液相成分の組成のみならず, 気相濃度の測定が重要であると考えられた.
著者
松浦 祐介 川越 俊典 土岐 尚之 蜂須賀 徹 柏村 正道
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.181-193, 2009-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

細胞診による子宮頸がん検診はその有効性を証明する十分な証拠があるにもかかわらず. 日本のがん検診受診率は他の先進諸国と比較して格段に低い. 順調に低下してきた死亡率もここ数年上昇傾向にある. 子宮頸癌の発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかであり, 性意識の変革や性行動の多様化により若年層で子宮頸癌の発症率が特に増加していることは大きな社会的問題である. 細胞診による子宮がん検診には約10%の偽陰性率がありなかでも頸部腺癌症例に偽陰性が多い. 細胞診のみによるがん検診には限界があるため, わが国でもがん検診の精度を上げる目的で液状検体(liquid-based cytology: LBC)を使用したり, 細胞診検査にHPV検査を導入する動きがある. 細胞診によるがん検診は様々な問題を抱えているが, 子宮頸癌による死亡率を減らすためには国・地方自治体・医療機関・企業・教育の現場などが現状を正確に理解し, それぞれが課題に対して積極的に取り組む姿勢が必要である.