著者
岡部 美香 Okabe Mika オカベ ミカ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.131-141, 1997-03

近年、家庭における子ども虐待が、現代社会の病理現象の一つとして問題視されている。この問題に代表されるような家族の変容あるいは解体といった社会的動向のなかで、教育学の領域でも、これまで自然かつ自明のものとみなされていた家庭の教育機能について批判的に検討することが、焦眉の課題として認識されるようになってきた。ここでは、そうした再検討の試みの一つとして、エレン・ケイの『児童の世紀』に焦点を当てる。そこで展開されている彼女の教育論は、「非入間的な学校(あるいは産業社会)」に対する「人間的な家庭」という二項対立の図式を思考の枠組みとしている。このように学校や産業社会の対立項としてく家庭〉が構想される場合、それは利益社会の原理を徹底的に排除した、一種のユートピア空間として描かれることとなる。本稿では、そのようにユートピア化されたく家庭〉における家族関係の構造を、ケイの『児童の世紀』における記述に即して解明することを目的とする。そのなかで、ケイが描いた〈家庭〉のもつ特徴と問題点を考察し、家庭の教育機能について現代のレベルで問い直すための端緒を見いだしたい。