著者
荘保 共子 岡部 美香
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.6_18-6_21, 2022-06-01 (Released:2022-10-21)
参考文献数
1

本稿は、2021年10月31日開催の日本学術会議・公開シンポジウム「子ども政策の総合化について考える」における荘保共子氏のご講演とそれに対する岡部のコメントをまとめたものである。国や地方自治体が子ども政策の総合化に本格的に取り組もうとしているいま、子ども政策の総合化を推進するにあたって留意するべきポイントが三つ挙げられる。まず、「官」の制度による保障と「民」の機動性の発揮をともに活かすことのできる官民協働の体制を構築すること、次に、アウトリーチ活動の推進によって課題を発見し可視化すること、そして、課題解決の過程ではつねに当事者(子どもとその家族)の参加と当事者中心という原則を貫くことである。最後に、残されている課題として、福祉政策の基盤となっている市町村の行政区をこえて生活するようになる高校生以上の子どもや若者に対する支援がいまだ不十分であることが指摘される。
著者
岡部 美香 Okabe Mika オカベ ミカ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.131-141, 1997-03

近年、家庭における子ども虐待が、現代社会の病理現象の一つとして問題視されている。この問題に代表されるような家族の変容あるいは解体といった社会的動向のなかで、教育学の領域でも、これまで自然かつ自明のものとみなされていた家庭の教育機能について批判的に検討することが、焦眉の課題として認識されるようになってきた。ここでは、そうした再検討の試みの一つとして、エレン・ケイの『児童の世紀』に焦点を当てる。そこで展開されている彼女の教育論は、「非入間的な学校(あるいは産業社会)」に対する「人間的な家庭」という二項対立の図式を思考の枠組みとしている。このように学校や産業社会の対立項としてく家庭〉が構想される場合、それは利益社会の原理を徹底的に排除した、一種のユートピア空間として描かれることとなる。本稿では、そのようにユートピア化されたく家庭〉における家族関係の構造を、ケイの『児童の世紀』における記述に即して解明することを目的とする。そのなかで、ケイが描いた〈家庭〉のもつ特徴と問題点を考察し、家庭の教育機能について現代のレベルで問い直すための端緒を見いだしたい。