著者
オマ-ル オスマン 奥田 隆明 中村 英樹 林 良嗣
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、日本では従来より実施されてきた車検制度が、自動車の大気汚染物質排出を抑制する効果の分析手法を開発するとともに、その効果の事後的分析への適用をはかった。さらにその結果を踏まえ、車検制度を今後の発展途上国での交通公害対策として導入するにあたっての効果および課題について整理を行った。車検制度が自動車の大気汚染物質排出抑制に及ぼす効果には、1)代替促進効果:車検費用の賦課によって、車齢の高い車から新車への買い換えを促進させ、低排出車が早く普及する効果、2)車両整備効果:車両の劣化によって排出レベルが基準を上回るようになった車両に対し、整備によって排出レベルを低下させる効果、の2つがある。以上の効果を推計するために、まず1)については、車保有者の車両存廃選択行動を、集計ロジット型のモデルにより表現した。説明要因として、各車両の車齢に依存する維持・車検費用と、新車購入費用を組み込んだ。また2)については、運輸省が実施した排出ガス実態調査を利用して、車両の加齢による汚染物質排出量変化を車検制度がある場合とない場合に分けて推計るモデルを構築した。以上の計量モデルによる分析例として、日本の全乗用車を対象に車検制度による大気汚染物質削減効果を推計した。その結果、1989年においては、一酸化炭素については23.4%、炭化水素については16.0%、一定の削減効果があることが把握できた。また、両物質ともに、2)車両整備効果による削減が全体の95%以上を占めることも明らかになった。一方、発展途上国の車両整備制度に関する調査を行った結果、日本よりかなり緩やかであることが分かった。したがって、日本と同レベルの車検を実施した場合には、その効果は日本以上に得られることが予想される。