著者
李 徳泳 吉田 章子 Duck-Young LEE Akiko YOSHIDA オーストラリア国立大学日本センター オーストラリア国立大学日本センター Japan Centre Faculty of Asian Studies Australian National University Graduate School of Asian Studies Japan Centre Australian National University
雑誌
世界の日本語教育. 日本語教育論集 = Japanese language education around the globe ; Japanese language education around the globe (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.223-237, 2002-06-28

「けど」は日本語の会話においてもっとも頻繁に使われる表現の一つであるが、特に「んだ」と共起して「んだけど」の形で用いられる場合が多い(本研究のデータは「けど節」全体の 58% が「んだ + けど」)。これは、「んだ」と「けど」が組み合わされることによってそれぞれの機能や特性が結合し、会話で頻繁に用いられる何らかの効果を生み出しているのにその理由があると考えられるのである。本研究の目的は、会話における「けど」の役割や「んだ」 の特性を調べ、これらの結合のメカニズムを明らかにすることである。 分析の結果をまとめると、まず、発話に「けど節」が主節(本稿では「関連要素」)と一緒に現れた場合に、「けど節」は「前置き」または「補足」としての役割を果たすが、ここで「んだ + けど」の組み合わせは、聞き手の注意を喚起する働きを持つ。また主節は現れず「けど節」が単独で使われた場合には、「んだ + けど」は、一方では話し手の気持ちを一通り表し、他方ではそれがあまり強く直線的にならないように抑える二重的な働きを持つ。この二重的な働きにより話し手は自分の気持ち感情を過不足なく表すことができ、また聞き手の注意を喚起する働きにしても、主節における主メッセージを相手に理解してもらう上で重要である。このようにして「んだけど」の表現は、円滑なコミュニケーションを行なう上で重要なストラテジーとして好まれるのだと考えられる。