著者
加治 順人 カジ ヨリヒト
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター
雑誌
非文字資料研究 = The study of nonwritten cultural materials (ISSN:24325481)
巻号頁・発行日
no.16, pp.37-68, 2018-09-30

本稿では、琉球・沖縄の神社の歴史を概観して、その多面的な特徴を指摘する。 琉球・沖縄の神社神道の歴史とは、琉球・沖縄が日本と向き合ってきた歴史と軌を一にする。しかし、それは単に在来信仰が日本の宗教文化に包摂されたことを意味するのではない。日本からの文化的影響を受け、時に政策的に統制されながらも、さまざまな特例措置や独自の改変によって、沖縄特有の神社文化を形成してきた。 沖縄で最初の神社は、14世紀後半に創建されたと伝えられる。だが、おそらくそれ以前から沖縄では、日本の神道の考え方とよく似た信仰の形態を育み、その聖地である御嶽を祀ってきた。だからこそ在来信仰と親和的な熊野信仰が琉球に根付くことになったのだろう。琉球王朝時代の官社「琉球八社」には、在来信仰と日本の神道が巧みに混合されている。薩摩の琉球侵攻、明治維新による琉球処分、日清戦争以後の日本の近代戦争、沖縄戦、アメリカによる占領期、本土復帰、と琉球・沖縄の近現代史はめまぐるしい変動にさらされた。だが、逆説的なことに、明治時代の改革、太平洋戦争、本土復帰、と「日本化」の風圧が特に強まった時期に、かえって民間信仰が正式に神社神道へ参入する道が拓かれてきたのである。その結果、沖縄では独自の神社文化が形成されたと筆者は考えている。 筆者は現役の神職で、沖縄県護国神社に勤めて22年になる。自身が職務を通じて経験したこと、関係者への聞き取り、現地調査での発見も「資料」として記述に活かした。そのほか、写真、古地図、慣習、建造物などの非文字資料も活用するよう努めている。