著者
羽鹿 諒 山西 良典 ジェレミー ワイト
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.246-255, 2018-01-15

外国語の発音は,単語の読み方を母語の発音の範囲で変換することが多いが,本来の外国語の発音とは異なる場合がある.本研究では,無関係な音を母語による発音として誤って認識してしまう現象である「空耳」に着目した.外国語で歌われた楽曲を聴取するとき,歌詞の一部を母語によって歌われたものとして認識することがある.空耳を応用し,外国語の単語や文節を母語の異なる単語や文節の読みに置換することができれば,より本来に近しい発音の把握につながると考える.本稿では,洋楽歌詞からの空耳フレーズの自動生成による英語発音の把握支援を主たる目標とし,その要素研究として発音が類似した単語を多言語間で横断的に検索可能であるかについて,基礎的な検証を行う.空耳聴取が成立する単語かフレーズを160ペア収集し,それぞれを国際音声字母に基づいて発音記号化することで,空耳聴取とカタカナ英語の発音がどれだけ本来の英語発音に類似するかを,レーベンシュタイン距離の算出により比較した.結果として,空耳フレーズとその元になった英語の発音記号におけるレーベンシュタイン距離は,カタカナ英語との比較に比べて平均1割,最大3割程度減少した.また,student's t検定による有意差検定を行い,有意水準を下回る結果を得たことで,空耳により聴取されるフレーズの発音は英語本来の発音に近くなることが示唆された.一方で,発音記号数で標準化した場合のレーベンシュタイン距離は,空耳フレーズよりもカタカナ英語が有利であることが確認された.これらの要因と結果について考察を行い,本研究の展望についてまとめて議論した.