著者
ティラカラタネ ラール 今井 健 荒井 聡 ティラカラタネ エランガ
出版者
日本農業市場学会
雑誌
農業市場研究 (ISSN:1341934X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.34-45, 2000

1997年1998年にスリランカのエッパワラ地域で行った農家調査結果にもとづき、稲作農業に関するコストや所得を試算し、現代の稲作農家の経済状況に影響している要因について分析し考察した。その結果、第1に、肥料・農薬の投下量が米の収量に比例しており、このことはすでに稲作が近代化されていることを示しいてること。第2に、肥料・農薬の投下量は、経営面積に比例して増加し、稲作の収量は経営面積が大きくなるほど増加する傾向が見られる。しかし、それは肥料・農薬の投下量の増加ほど明確ではないこと。第3に、1エーカー当たりの稲作の粗収益と総コストは経営面積が大きくなるにしたがって増加するが、所得については、経営規模間の相違は見られないこと、などである。このように稲作の経営規模間の生産性にかかわる諸指標の間にズレがあることが明らかとなったが、その要因は、農業雇用労賃、農業資材費用と不十分な潅漑条件などにあると考えられる。スリランカの稲作は技術的には、一部潅漑条件や機械化などの不十分さはあるものの「緑の革命」や開放経済過程の条件下で近代化されたといえる。しかし、近年の低価格な輸入米の増加による生産者米価の低下や雇用賃金などのコストの高騰が、大規模経営のスケールメリットを不十分なものとし、経営的優位性が確認できない要因となっているといえる。そのため大規模経営農家は、稲作経営の一層の拡大ではなくて、金貸しや稲作以外の農業やサイドビジネスに投資する傾向が強まっでいる。