著者
デービス ブレット
出版者
Nishida Philosophy Association
雑誌
西田哲学会年報 (ISSN:21881995)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.203-183, 2013 (Released:2020-03-22)

文化や異文化間関係に関する西田の論文や講演は、1934 年から 1945 年の混乱 した時期に発表された。それにもかかわらず、西田は現代のポストコロニアル思 想をめぐる議論に大いに貢献できるような文化論や異文化間関係論を展開した。 それは高く評価すべきのみでなく、それから学ぶべきことが多大にある。本論文では、西田の多文化的世界観の現代的意義を究明したいと思う。もちろん西田のテクストには批判すべき点もある。たとえば、排他的な日本主義を明白に拒みながらも、包括的な日本主義を示唆している箇所がたしかにあることである。しかし、それを批判するために、他の哲学や倫理思想に依拠する必要はないと思われ る。なぜなら、西田自身の核心的で原理的な思想に基づき、そのより周辺的であ る日本主義的な発想や時折の発言に対する〈内在的批判〉を行うことが充分できるからである。 本論文の第一の目的は、西田の多文化的世界観の原理や核心的な思想を究明す ることである。それは最初の四節において行われる。1.「欧米中心主義と日本中心主義を超える道への探究」。2.「絶対無の場所― 異文化間対話の究極な背景として」。3.「原文化― 文化的多様性を支える普遍的な「幹」」。4.「日本哲学 ― 普遍性への特殊的な貢献」。そして、残りの二節では、以上見た西田自身の 異文化間関係の原理的な思想に基づき、問題的な考えや発言のいくつかについての〈内在的批判〉を行う。5.「脱線― 〈包括的な日本主義〉の時局的な主張」。 6.「内在的批判― 時には西田をもって西田を批判する」。 このように、時には〈内在的批判〉を含めながらテクストを読んでゆけば、西 田の異文化間関係についての考察は、現代のいわゆるグローバル化している世界における粘り強い欧米中心主義を批判するのみでなく、真なる異文化間対話に基づく「世界的世界」を想像・創造することの大きな手助けとなるであろう。