著者
ト部 敬康 佐々木 薫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.283-292, 1999-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
7 2

本研究の目的は, 授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校, 33クラス, 1490名を対象に質問紙調査が実施され, 私語に関するクラスの規範, 私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は, リターン・ポテンシャル・モデル (Jackson, 1960, 1965; 佐々木, 1982) を用いた。また, 調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって, 各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ, 多私語群7クラスと少私語群8 クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1) 多私語群においては少私語群よりも相対的に, 私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2) 生徒に認知された教師の期待は, クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり, かつ両群間でよく一致していた。また,(3) クラスの私語の多い少ないに拘わらず, 「規範の過寛視」 (集団規範が私的見解よりも寛容なこと) がみられた。これらの結果から, 私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の (1) および (2) から, 教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく, 授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され, 結果の (3) から, 生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら, 彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。