著者
安岡 美佳 ニールセン レーネ
出版者
一般社団法人 情報システム学会
雑誌
情報システム学会誌 (ISSN:18842135)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.14-30, 2014 (Released:2017-06-08)

人間中心のシステム開発手法の一つであるペルソナ法は,ユーザの顕在ニーズを汲みとり,非顕在化ニーズを洞察するためのデザイン・ツールとして 欧米を中心に利活用されてきた.近年,日本でもペルソナ法が利用されるようになってきたが,活用方法はもとより作成プロセスに関しても参考になる事例 は限られているようだ.ユーザ群を的確に反映するペルソナ作成はペルソナ手法の利用効果を最大化するためには欠かせない. 特に,利用対象者が多岐に渡り多くの属性への対応が不可欠になってくるITシステム,例えば 電子政府の構築においてペルソナ法を利用する場合は,社会的責任や社会全体に対するインパクトが高いことからも,一層適切なペルソナ構築が重要になる.本論は,ペルソナ活 用段階以前の「ペルソナ作成プロセス」に焦点を当て,大規模公共システムのための効果的かつ実践的なペルソナ構築方法を論じる.事例として,国家規模 の電子化の成功事例として国内外で言及されることが多いデンマーク電子政府のアプリケーション,「電子政府ポータル」を扱い,ペルソナ作成には反復を 前提とした精錬プロセスが不可欠であること,さらに,プロセス全般において,利害関係者の積極的な参加が重要であることを示す.デンマークの電子政府 ポータルで活用された参加型を採用した国民を包括するペルソナ群の構築方法は,今後我が国で増加すると想定される社会的インパクトの強いITシステム のためのペルソナ構築事例として,重要な示唆を与えるものと考える.