著者
菅野 洋光 西森 基貴 遠藤 洋和 吉田 龍平 ヌグロホ バユ ドゥイ アプリ
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

北日本における4月と8月の月平均気温は、季節が異なっているにもかかわらず、1998年以降、強い負の相関関係を示している(Kanno,2013)。前回の大会では、これがIPOにより判別される気候ステージ(-IPO)で発現しており、ラニーニャモードによるSSTの応力の弱さと偏西風循環に内在された独自の変動に影響されている可能性があることを指摘した。また、インドネシア付近の対流活動の重要性についても明らかにした。今回は、対流活動の中心に位置するインドネシアの農作物生産性の変動について、IPOに基づく気候ステージを考慮した解析を行った。<br>北日本の月平均気温偏差は気象庁HPよりダウンロードした。客観解析データはJRA55を、多変量解析は気象庁のiTacs (Interactive Tool for Analysis of the Climate System)を用いて行った。インドネシア農作物収量データは、イネ、トウモロコシ、ダイズの3種類で、1993年~2015年の期間、34の州のデータをインドネシア農業省より入手した。このうち、26の州についてはデータの欠落がなく、以下の解析にはそれらのデータを用いている。一般に途上国での農作物生産性は、栽培技術の進歩により時間の経過とともに増加する。そこで本研究では、全期間のデータに一次回帰計算を行い、回帰式からの偏差を解析対象データとした。また、近年の気候ステージについては、England et al.(2014)によるIPOのステージ区分を用い、また生産性と海洋変動との比較には、標準的なPDOインデックスを用いた。<br>図1にはインドネシアにおけるイネの生産性の一次回帰式からの偏差と年平均PDOインデックスの時間変化を示す。全期間(1993-2015年)を通すと相関係数は0.34となり、統計的に有意ではない。そこで、IPOによる気候ステージを考慮して、2001年以前(概ね+IPO)と2002~2013年(概ね-IPO)とで分けると、前者はR=+0.78、後者はR=-0.70で、ともに危険率5%以下で統計的に有意となった。また、エルニーニョが発生した2014年以降は、一転して同時的な変動に移行したようにみえる。トウモロコシでは、イネと同様に、全期間を通すとR=0.22となり、統計的に有意ではないが、IPOステージを考慮すると、2001年までがR=0.84、2002~2013年までがR=0.71となり危険率1%以下で統計的に有意となる(図略)。図2にはダイズの例を示す。こちらはIPOステージとの関係は明瞭ではなく、全期間を通して有意な正の相関を示す(R=0.57)。このような作物ごとの差異についてその原因を考察するため、JRA55を用いたインドネシア域(10S-5N, &nbsp;95E-140Eの矩形領域)における年積算解析降水量を計算し、PDOと比較した(図3)。その結果、全期間を通して降水量とPDOは負の相関を示し(R=0.67)、特に1997年以降が明瞭でR=0.76となる。すなわち、イネ、トウモロコシの生産性については、-IPO期間は降水量の年々変動に強く影響されていることが分かる。また+IPO期間については数年の幅はあるが、PDOと降水量とが比例している時期と重なっており、こちらも概ね降水量に影響されていると言える。一方、ダイズについては解析期間を通してPDOと正の相関を持ち、イネ、トウモロコシとは異なった変動を示している。これは、インドネシアではダイズはmain cropではなくcatch cropであるため、特に-IPO期間ではイネ、トウモロコシが不作の際に補完的に作付けられ、それが降水量変動と負の関係を示す原因として考えられる。