著者
ハリト ムズラックル
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.17-35, 2022 (Released:2023-02-27)

トルコには、「メッダーフルック」(Meddahlık)という、一人の語り手が仕草や声色で複数の人物を造形し、聴き手の興を誘う話芸があった。語り手であるメッダーフ(Meddah)は、「人々の暮らしの中の滑稽な場面を鋭い観察眼とともに再現しリアルな場面を表現」していた(Jacob 1904:13)。メッダーフルックは会話を中心とした表現方法で物語を進め、聴き手を想像の世界へ導いていた。宗教や聖人伝説を語ることからスタートしたメッダーフルックであったが、次第に宗教色が薄れ、人々の実生活にかかわる噺が増えた。しかし、20世紀に入ってから、娯楽の多様化や西洋演劇の受容によってほんのわずかに演じられる程度にまで衰退し、メッダーフルックを職業とする語り手が現在ではほとんどいなくなった。 本研究では、落語の口演形式との比較の上で、メッダーフルックの構造分析を行い、落語とメッダーフルックには共通する要素が多くあることを明らかにした。また、歴史的な背景の分析も行った結果、メッダーフルックと落語の成立に「宗教性」が関与しているという点においても共通していることを検証した。