著者
ビルンド エリック 岩田 修二
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.112-121, 1981-04-25 (Released:2010-11-18)
被引用文献数
1

フィンランド・ノルウエー・スウェーデンの北部に35, 000人ほどいるラップ人のうち, 山地の森林限界以上に居住する山地ラップ人と, 低地の森林に居住する森林ラップ人とは, 暮らし方がかなりちがっている。森林ラップ人の生活は古い時代のラップ人の生活様式を色濃く残している。ごく最近まで, 森林ラップ人は狩猟や漁労 (これらはラップ人の古い生業形態である) を生業にしていた。トナカイの飼育を始めたのは最近で, 飼っている頭数も少なく, 移動範囲もせまい。山地ラップ人が牧畜を始めたのもそれほど古いことではなく, 16-17世紀である。そして, およそ100年前には完全に牧畜(移牧)だけに依存するようになった。夏には高山地域へ, 冬には森林地域へ移動し, 春と秋は亜高山帯で過す。移動距離は数100kmにも達している。山地ラツプ人の生活基盤は牧畜業にあると考えられがちであるが, 現在では牧畜だけで生活しているラップ人の数はたいへん少数になった。スウェーデンの場合, ラップ人口のうちの7%ないし25%にすぎない。17世紀後半には, ラップランドにはラップ人だけが居住していた。そこへ, 南からの移住農民が侵入するにつれて, いろいろの問題がおこり始めた。これに対する政府の立場は, スウェーデンの場合, 土地は広大であり, 移住農民と牧畜ラップ人とは生活の場が異なるから摩擦は起きないであろうというものであった。しかし, 現実には多くの問題が起き, ラップ人はいつも不利益をこうむってきた。政府が長年ラップ人を保護し, 生活水準・教育水準を高めてきたとはいうものの, 少数民族であることと, 牧畜という不安定な生業に依存していることとのために問題の根本解決はなされていない。ラップランドからの人口流出が20世紀半ばから始まったことによって, ラップ人がラップランドとその周辺でスウェーデン人に雇用される機会が減った。いっぽう, ラップ人に対する人種偏見は減り, ラップ人がスウェーデン社会にとけこみやすくなった。しかし, これがラップの固有文化の崩壊をはやめることになった。現在では都市で生活しているラップ人も多い。