著者
フォルテン コンラッド
出版者
上智大学
雑誌
アメリカ・カナダ研究 (ISSN:09148035)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.21-68, 1989-03-20

多くの人々はカナダ人を完全に二言語主義の国と考えているが, 1981年の前回の国勢調査では, 実際にフランス語と英語を話せるのは370万人のカナダ人で, これは人口の13%にしか相当しない。1971年の国勢調査時からは2%の増加しかみられない。だが歴史的にみると, 二言語政策はニューフランスが英国の植民地となった1763年に始まる。つまり英国による征服以前は, ニューフランスの全住民がフランス人であり, 公共機関も完全にフランス式のものであった。フランス人は自分たちの言語を守るために長年イギリス人との政治闘争にかかわったが, 1867年にようやく英領北米法により英語とフランス語の併用が認められ, 1982年憲法の「自由と権利の章典」につながるのである。当初, カナダのフランス語はフランスで使用されている言語のまねであったが, 次第に独自の言語に発展して特有の発音と語いをもつほどになった。また英語は, 元来, 1776年のアメリカ革命への参加を嫌ったロイヤリスト(王党派)がカナダにもたらしたイギリス英語とアメリカ英語の混合英語である。労働力, 公務執行, 言語教授法, 英仏両系の少数民族教育などの分野で二言語の使用能力上の問題があり, 今日のカナダ人の大半が支持している二言語政策の発展を遅らせている。