著者
辻 大和 プルノモ スゲン T ウィダヤティ カンティ A
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.36-37, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

コロブス類では、新生児の毛色が成長とともに変化することが知られている。たとえばアジア産のTrachypithecus属の場合、新生児の毛色は生後まもなくは鮮やかなオレンジ色だが、数カ月以内に親と同じ黒色に変わる。コロブス類の体色変化の適応的な意義については、同じ群れの他個体から保護を引き出すための信号であるという説や、捕食者の目をくらますのに役立つという説が出されているが、結論は出ていない。これまでの研究は新生児の体色と行動の関係を横断的に評価したものがほとんどであり、捕食者や他個体の反応が体色変化に伴って変化するのか、継続的に調べた研究は乏しかった。そこで本研究は、インドネシア・ジャワ島パガンダラン自然保護区のジャワルトン (T. auratus) の新生児(2群:N = 6)を対象に、2018年1月から3月に野外調査を実施した。各対象個体について、瞬間サンプリング法で1) 対象個体の行動、3) 周囲1m以内の近接個体数、3) 新生児に対する他個体の行動の3点を記録した。また、各観察日に対象個体の経路を撮影し、10段階にスコア付けした(0: 黄色→ 10: 黒色)。成長とともに各個体の体色スコアは増加した。体色スコア増加とともに母親に抱かれる割合が低下し、逆に移動・採食・遊びの割合が増加した。新生児に近づく個体数は、体色スコア増加とともに少なくなった。また、他個体からのグルーミング、接近、接触行動は体色スコア増加とともに低下した。以上の結果は、新生児の体色変化は同じ群れの他個体のケアを誘引する信号という仮説を支持するものである。ジャワルトンのオレンジ色の体色は、生後約3か月間維持される。この期間は捕食者からの攻撃や子殺しにより死亡リスクが高いと考えられ、この期間に他個体からサポートを受けることは、彼らの早期死亡率を下げることに役立つと考えられた。