著者
ベグム S
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、再生可能な木質バイオマスの量や質を決定する形成層活動の制御機構を細胞生物学的に明らかにすることを目的とした。そこで、交雑ヤマナラシとスギを用いて、形成層活動休眠中の冬期の樹幹に人為的な加温処理(約22℃)を行い、樹幹温度の上昇のみで形成層細胞の分裂開始が誘導されることを明らかにした。さらに、樹幹への局部的な加温処理をモデル系として、形成層再活動に伴うデンプンや脂質など貯蔵物質量の変化パターンを詳細に解析した結果、形成層細胞や師部柔細胞内に含まれる貯蔵物質量が細胞分裂や細胞分化に伴い減少することから、光合成年よる同化産物の供給が制限されている時期において、デシプンなどが細胞分裂開始に必要なエネルギーの供給源であると結論づけた。また、形成層細胞内の微小管を蛍光抗体染色法で観察し、微小管の低温に対する感受性が、形成層細胞の活動期と休眠期では異なることを明らかにした。一方、形成層活動の開始時期と最高気温、平均気温、最低気温との関連性を統計的に解析し、形成層活動の開始時期には最高気温との間に密接な関連性があることを明らかにし、形成層活動を制御する温度閾値を計算した。これらの結果を基に、形成層活動開始時期を予測するために有効な新しい形成層活動指標(Cambial reactivation index ; CRI)を提案した。さらに、CRIには樹種や形成層齢による特性があり、形成層細胞の温度に対する感受性の違いが形成層活動の開始時期の違いを制御していることを明確にし、冬期や初春の気温が上昇した場合の形成層活動の開始時期の変化を予測した。