- 著者
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ボブロフ アレクサンドル
- 出版者
- 日本スラヴ・東欧学会
- 雑誌
- Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, pp.59-79, 2010-03-31
「二重信仰」(さまざまな信仰上の要素の混交)は世界のどの宗教にも見られる。文学作品では、「二重信仰」はキリスト教の異教化または異教のキリスト教化として理解されている。ルーシのキリスト教化は、正教と民間信仰が混交するということであり、それらが代替しあうということである。キリスト教と異教の混交によって、蛇型魔よけ、古代ロシアのロードおよびロジャニツァ崇拝、異教の神々の姿を聖人像と混同することなどが起こった。民衆の宗教観は、聖ミハイル・クロプスキー伝(1470年代)や、『ピョートルとフェヴローニヤ物語』(1540年代)における聖フェヴローニャの人物像に窺うことができる。キリスト教および異教の儀式や諸概念の代替は、蒸し風呂で行われる「通過儀礼」を見ることで、たどっていくことができる。蒸し風呂で行われる魔術は、それに対応する教会儀礼(洗礼、婚姻、通夜)の代役を果たす。したがって、ロシアの伝統において蒸し風呂は家庭における聖堂のようなものとして検討できる。movьと呼ばれる蒸し風呂での儀式は古くから知られている。『過ぎし年月の物語』(11-12世紀)には、オレーグが、コンスタチノープルで、movьを実施する権利をルーシのために得たこと、オルガ(オリガ)大公夫人が彼女の敵対者たちを欺いて、婚姻の際の蒸し風呂の儀式の代わりに、葬礼の際の儀式を行ったことが書かれている。古代ロシア語のmovьは北ヨーロッパで広まっていた、蒸し風呂において植物を使い行われ、参加者を死者と魂の世界と交流させる、異教の儀式を指していた。「蒸すこと」(つまり「汗を出すこと」)を内容とする儀式、および植物を焦がすことで得られる煙の吸引は、多くの古代社会において行われていた。古代ルーシも例外ではなかったのだ。教会と蒸し風呂は、人間の宗教的活動の、互いに補完しあう二つの中心であった。